- アート&エンターテインメント
- 2019.09.10
越前和紙の未来を照らす、新時代のコラボレーション
撮影=小林廉宜 文=清水千佳子
1500年の歴史をもつ越前和紙と世界的アーティスト、テオ・ヤンセンさんのコラボレーション作品が誕生。9月21日から始まる「テオ・ヤンセン展 in ふくい & Craft exhibition」でお目見えする。
越前和紙は福井県が誇る伝統的工芸品の一つ。1868年に発行された日本最初の全国共通紙幣も越前和紙だ。襖紙(ふすまがみ)など大判の手漉き和紙も有名で、オランダ人アーティスト、テオ・ヤンセンさんとのコラボレーションもその技術のおかげで実現した。
テオさんが3 0 年間改良を重ねながら造り続けている「Strandbeest(ストランドビースト/オランダ語で砂浜の生命体を意味する造語)」は、風の力で生きもののように歩く独創的な作品。制作の目的を「自分がこの世を去った後も、砂浜で生き抜いていける新しい生命体を完成させること」と話す彼が重視しているのは、雨や風、砂への耐久性。そのため、帆の部分にはパラシュート用の布を使用してきた。
そんなテオさんが今回初めて帆に紙を使うことを決めたのは、日本の伝統工芸品へのリスペクトから。ただ、当初は「紙は水に弱く、破れやすい。うまくいくのか、少し懐疑的だった」という。その不安を見事に払拭したのが、越前和紙職人の瀧 英晃さんだ。
「帆のための和紙」という難題の制作にあたり、瀧さんはまず、強度を考え、2枚を貼り合わせて作ってみたという。「でも、テオさんの作品が動いている動画を見て、軽さも同じくらい重要と気づき、1枚で薄くて丈夫な和紙にする方向に切り替えました。コウゾだけだった原料にミツマタを加えたり、こんにゃく糊を塗布し表面を強化するという伝統的な技法を用いる際、さまざまな濃度で試したり、試行錯誤を繰り返して仕上げました」。
2018年の秋、越前和紙を使った2体のストランドビースト、「オルディス・クォータス」と「オルディス・クインタス」が無事完成。オランダの砂浜で行われた試走の日は強い雨と風の悪天候だったが、日本から駆けつけた瀧さんも見守るなか、ビーストは快走!心配された帆の損傷もほぼ皆無だった。テオさんは「想像以上の強さに感動しました。なにより、越前和紙は風合いが美しく、肌触りがいい」と瀧さん渾身の作を称賛。2作品はまもなく開催される展覧会で展示されたのち、日本で初めて福井県が保有することになる。越前和紙の未来を照らす大作に会いに、福井県へ出かけてみてはどうだろう。
テオ・ヤンセン
1948年 オランダ生まれ。デルフト工科大学で物理学を専攻。1975年より画家として活動。1990年に風の力で砂浜を進む立体作品「ストランドビースト」の制作を開始。欧米やアジアなど世界各地で開催されている展覧会では、生きているかのような躍動感のある動きが驚きと感動を呼んでいる。
www.strandbeest.com
瀧 英晃
1979年福井県生まれ。福井工業大学卒業後、デザイン事務所などを経て2005年に家業の滝製紙所に入社。伝統技術と新しい感性を駆使して、さまざまな種類の和紙を制作。越前市の工芸の魅力を若い世代に伝えるイベントの実行委員長を務めるなど、産地の活性化にも尽力している。
インスタグラム:#takiseishi
テオ・ヤンセン展 in ふくい & Craft exhibition
会期/9月21日~10月27日
開館時間/10時~17時(会期中無休)
会場/サンドーム福井(福井県越前市瓜生町5-1-1)
入場料/一般1000円(高校生以下は無料)
お問い合わせ/国際北陸工芸サミットプロジェクトチーム
Tel. 0778-22-6021
Strandbeestはコラボレーション作品2点を含めて全15点を展示予定。
公式HP: https://theojansen-fukui.jp
テオ・ヤンセン来日講演
9月22日 公式HPから申込受付、先着順 定員150名
リ・アニメーション(動くStrandbeest)
1日5回、90分に1回のペースでビーストが実際に動く様子をご覧いただけます(時間は変更になる場合があります)。
東京から 北陸新幹線→金沢駅乗り換え→JR北陸本線→鯖江駅 約3時間10分
東海道新幹線→米原駅乗り換え→JR北陸本線→鯖江駅 約3時間10分
大阪から JR北陸本線→鯖江駅 約1時間40分
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