Birdy デキャンタは、高さ15cm ほどで小ぶりな印象だが、それは1 ~ 2 杯分から手軽に、日常的にデキャンタージュを取り入れてもらうため。タンブラー2 種(左の写真・奥)もそれぞれ、ビールの理想的な泡立ちや、まろやかな水割りを生む、計算された機能をもつ。
デザイン&プロダクツ
2020.04.16

世界が驚くMade in Japan―1

丁寧で緻密、高度な技術力はもちろんのこと、これまでになかった新発想で世界を驚愕させる“ 新しいモノづくり” が今、日本で始まっています。使うほどに愛着のわくファクトリーブランド、産業の未来を担うテクノロジー。身の回りに溢れる素材たちが、手わざと創意、熱い想いによって生まれ変わる現場を訪ねます。

お酒を大変身させる磨きマジック
―Birdy デキャンタ
600トンにもおよぶ威力で次々と自動車部品を成型する、大型プレス機が立ち並ぶ工場の一角で、ここにしかない日本の技術力が魔法のような道具を生み出している。くびれたフォルムと銀色の光沢が美しい器。味と香り、口当たりを劇的に変化させ、お酒を飲む楽しみを何倍にも増してくれるのだ。
言わずと知れた「トヨタ自動車」をはじめ、製造業の従業員数の実に8 割以上、そして工場数の3 割以上が自動車関連という愛知県豊田市。横山哲也さんが商品企画を担う、1951 年創業の「横山興業」は、プレス、溶接など自動車部品の加工を専門として、建材事業や太陽光発電事業も展開し、現在横山さんの兄が三代目社長を務める。
横山さんが自社の海外工場に勤務後、帰国した際に実感したことは、自動化が進む現場は設備と技術の習得さえあれば世界のどこにでも根づき発展しうるということ。では日本ならではのものづくりとして、自社の金属加工技術を活かし、何か面白く付加価値の高いことができないか、とたどり着いたのが、カクテルツールの製作だった。行きつけのバーでひらめき、シェイカーをきっかけにバースプーン、メジャーカップなどを、現場のバーテンダーたちの声を取り入れながら、2013 年来、世界17 の国と地域に販路を拡大。カクテルの聖地と言われる、ロンドンのラグジュアリーホテルThe Savoy にて採用されるまでに成長させた。そして2018年にお披露目されたのが、このBirdy デキャンタだ。
ワインのデキャンタージュといえばボトルからガラスの容器に移し替え、1 時間ほど静かに寝かせるのが一般的。珍しい金属製のデキャンタは、その工程を革新させる。1 杯から2 杯分のお酒を注ぎ入れ、片手でクルクルと数回回すだけで、ワインの角が取れまろやかに。手頃なテーブルワインでも香りが華やかに花開き、ちょっと特別な高級ワインのようになる。さまざまなお酒に応用できる点も注目で、例えばウィスキーなら、抜栓して数ヵ月後のまろやかさを瞬時に得られるようだ。回す回数によって味わいの変化の幅を発見し、自分好みを追求する楽しみもある。

デキャンタとタンブラーを研磨する。特にデキャンタは、そのゆるやかに湾曲したフォルムゆえ、均一に磨くには熟練を要する。
秘密は、液体の対流を生み程よく空気を含ませるよう、内部に施された磨きの加工。磨きといっても平面にならすのではなく、ミクロンレベルの微細な凹凸を、丸みをもたせつつ残すという、人間の手でなければ成しえない熟練の技だ。磨きの作業を担うのは、精鋭の女性チーム。回転する研磨機のパーツを変えながら、ひとつに8 工程、1 時間近くをかけ仕上げていく。
遊び心ある“バーディ” というシリーズ名の由来は、もちろんゴルフ用語。「水準(par =規定打数)より一歩先をいく、という意味から着想しました」と横山さん。「ゴルフは打数がマイナスになるほど優位になるスポーツ。研磨の技術で、よりシンプルなフォルムへと削ぎ落としていく作業にも通じると思って」。シンプルで、世界中で目に留まるジャパン・ブランドに、という想いを込めた。
Birdy デキャンタ 1 万6800 円(税抜)
birdy.shop/
お問い合わせ:birdy@yokoyama-co.com
<この記事はKateigaho International Japan Edition 2018 Spring/Summerの特集ページより抜粋。>