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- デザイン&プロダクツ
- 2020.05.11
世界が驚くMade in Japan―3
―cygne
人気ヘアメイクアップアーティストの監修と、
医療器具や歯のインプラントにも採用されるチタンはアレルギー反応が起きにくく、身体への安全性と錆びにくさで重宝される一方で、加工が難しい金属。技術力を結集させcygne を生み出す、3 つの現場を訪ねた。
重厚なハンマー音が響く。熱したチタンの棒を型の窪みにあてがい、ハンマーを落下させ叩きながら、ひとつひとつ成型していく。
まず成型を担うのは、ステンレスやチタンの“熱間鍛造”(ねつかんたんぞう)を専門とする工場。1000℃に熱した棒状のチタンをハンマー鍛造機で叩き、型に押し込むようにして成型する。500kg あまりのハンマーが落下し火の粉が飛び散るさまは大迫力。型に叩き込むときに出るバリがぶつかり合うと製品本体に亀裂が入りやすくなるため、ハンマーを操る職人の手元の感覚が重要だ。
磨きの精度を高めるために自家製の研磨機に改良を加えたり、海外から研磨材を取り寄せたりと試行錯誤の日々だと語る、研磨工房の社長。
続いては研磨の作業。親子3 人で営むこの小さな工房では、理容用の梳きバサミや医療器具などの研磨に独自の技術を用い、湖面のように美しく精密な仕上がりに各業界が信頼を寄せる。チタンの研磨は、微細な粉が飛び散り、火花が出て炎上しやすく危険を伴う作業。熟練の力加減で、cygne の複雑な曲線と細かいくびれを磨き、置いたときのバランスも整えながら、ひとつひとつ手作業で仕上げていく。
化学の力で金属が大変身する、表面加工の技術。
研磨によって作られる美しい鏡面の“シルバー” のほか、シリーズには“ゴールド” と、しっとりとした風合いの“シャンパンゴールド” “チョコレートブラウン”があるが、これらの色はメッキや塗装による着色ではなく、金属の表面に自然に発生する” 酸化皮膜”を利用したもの。薬品に浸けて電流を流し、ミクロンレベルで皮膜の厚みを変えることで、光の屈折により目に見える色が変化する。“ 構造色” や“干渉色” と呼ばれるこの色は、チタンであれば100 色もの表現が可能という。金属の表面処理を専業とする工場で、製品の表面の状態、さらには気温や湿度などさまざまな影響をコントロールし、経験と勘と感性を活かしてcygneのこだわりの色が仕上げられている。
火の力、手の力、科学の力、そしてデザインの力の競演により大切につくられる道具は、触れるほどに一層愛おしさが増すようだ。
金属加工技術を軸に、
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