左から:ORIAMI® は、金属の配合によって色が異なる。上から「丹銅」(Red brass)、「ステンレス」(Stainless steel)、「純銅」(Copper) の3 種。幅広いバリエーションのKANAORI は、オーガンジー や上質なヘリンボーン調の織物さながらの風合い。光の具合で色の見え方も変化する。軽やかさのなかにも、金属ならではの質感と華や かさが魅力だ。
デザイン&プロダクツ
2020.04.23

世界が驚くMade in Japan―2

丁寧で緻密、高度な技術力はもちろんのこと、これまでになかった新発想で世界を驚愕させる“ 新しいモノづくり” が今、日本で始まっています。使うほどに愛着のわくファクトリーブランド、産業の未来を担うテクノロジー。身の回りに溢れる素材たちが、手わざと創意、熱い想いによって生まれ変わる現場を訪ねます。
布のように紙のように自在に
―KANAORI / ORIAMI®

手にひんやりとする感触とかすかな重量感で、初めてそれは金属であると驚かされる。布なのか、紙なのか、と見紛うばかりのこれらの正体は、金網だ。

金網は私たちの身の回りに溢れている。網戸、キッチンの水きりカゴなどはもちろん、自動車部品や家電に使われるフィルター。さらには、製紙工場で紙を漉すいたり、樹脂製品や食品、薬品の原料を漉すなど、金網がなければ成り立たない製造業は数多い。あらゆる場面で生活を支えるそんな金網がいま、美しく姿を変えている。


機械化が進むなかでも「石川金網」の現場では、最終段階は人の 目と手先の感覚がものをいう。

東京の下町、荒川区にある大正11(1922)年創業の「石川金網」は、一世紀近くに渡り、家庭用品や精緻な工業用部品から、建材用パネルまでを製造してきたトップメーカーだ。金網といえばまず、ものによっては髪の毛以下の細さにまで金属を加工し、それを網状にしていること自体が驚きだが、技術の粋はそれだけではない。切り方によっては断面から解けてきてしまうため、正確な位置で断裁する加工に各社のノウハウを駆使するという。柔らかい素材を切るのと違い、刃がぶれやすく、直線に断裁する難しさもある。

世界的に見ても、日本の金網の技術と品質は群を抜く。だが時代の流れで安価な海外製が普及するなか、国産品のポテンシャルを活かしきりたいと、主力の大量生産品とは別路線で石川金網が近年取り組んできたのが、全く新しい金網の提案なのだ。

デザインと機能性が両立する「KANAORI」のポイントは“異素材” の組み合わせ。その反物さながらのロール状の姿からも、金網は“織物” であるのだという印象が増す。金属の中では比較的硬いステンレスを縦糸に、横糸には銅、真鍮などをさまざまに組み合わせることで、縦・横方向の伸び方やしなやかさを変えたり、カラーステンレスを使いトリコロールの縞模様に織り上げたりと、表現の幅は無限だ。空気も光も通す、インテリアやディスプレイ用の素材として提案している。

折り紙好きな社員の発想をもとに開発したのが「ORIAMI®」。布のようにしなやかながら、紙以上にしっかりとした、金網製の折り紙だ。イタリアでの展示会では現地の折り紙協会から反響があったり、軽さを活かしてアクセサリーや、フラワーアートなどの素材にとクラフト愛好家に人気だったという。


ORIAMI® は3 枚入り1000 円から。東急ハンズ、ヨドバシカメラ、 Yahoo!ショッピングなどで販売中。

石川金網の工場には、今では珍しい木製の手織り機があり、ときに規格外の注文に細やかに応じ、手作業で網目のピッチや線の太さを変え試作をする。長年培ってきた技術と老舗としての矜持が、金網の新たな境地を可能にした。「KANAORIもORIAMI® も、あくまで金網という“ 素材” ですが、それだけに、使い手の皆さんのアイディアからヒントをいただき、さらに良いものを作っていくやりがいを感じます」と社長の石川幸男さんは笑顔で話す。石川金網にしかできないことを出発点に、日本のものづくりの可能性が広がっていく。

<この記事はKateigaho International Japan Edition 2018 Spring/Summerの特集ページより抜粋。>