- 食
- 2020.05.08
世界へ羽ばたく"キャメルファームワイナリー"の挑戦―1
撮影=大泉省吾 文=露木朋子
北海道・余市。日本のウィスキーの故郷として耳にしたことのある地名かもしれない。古くから果樹栽培が盛んであったが、昨今は良質のワイン用ブドウも多く生産されている。トスカーナやリオハと同緯度で、ワイナリーとしては日本最北に位置するここは、ブドウの樹が雪の下で越冬する世界でも類を見ない北の大地でもある。そんな余市に誕生した「キャメルファームワイナリー」は2014年農業法人設立、17年に自社醸造所完成。そして18年にはファーストヴィンテージをリリースと、まさに快進撃。造り手の熱い気持ち、土地の歴史と伝統の継承、地域の活性化、新たな人材の育成……、さまざまな想いや夢とともに、かつてない新しいスタイルで、世界に誇れるワイン造りを目指している。2019年秋のイタリア醸造家連盟総会でも称賛された、ワイナリーの挑戦を追う。
北海道・余市で新たなワイン造りの冒険が始まる
北海道屈指の醸造用ブドウ栽培の適地として注目される余市町。少量生産も可能なワイン特区として認定を受けてから、意識の高い個人ドメーヌも次々とオープンし、バラエティあふれるワインを生み出している。キャメルファームワイナリーも余市のワインシーンを牽引するワイナリーのひとつ。自然や環境に配慮し、世界中から安全・安心なものを日本の食卓に届けているキャメル珈琲グループの取り組みの一環として2014年に設立した。その理由は、世界の食材を求めて多くの国や産地を巡り、さまざまな出会いを繰り返しながら、人と自然の豊かな共存をサポートするなかで、キャメル珈琲グループがある”気づき”を得たことに端を発する。海外だけではない、日本にだって守るべき豊かな自然や独自の食文化、それを支える技術がある、そのことを世界に紹介したい――。
世界各地でテロワールを探求する醸造家、リカルド・コタレッラ氏とも、環境や人へのサポート活動を通じて出会った。日本特有の自然の恵みを世界へ発信しようと思うなら、世界に誇れるワインを造ってみたらどうだろう? ワインを通して日本の自然の素晴らしさを伝えられないだろうか? そしてそれが地域を活性化することにならないだろうか? その想いに共感したコタレッラ氏の協力のもとキャメルファームワイナリー プロジェクトはスタートした。「彼らとの友情、熱い想いに心が引き込まれていったのです」とコタレッラ氏は語る。多くの想いと素晴らしい縁、いくつもの偶然がプロジェクトを後押ししていく。
新たなワイン造りの地として選ばれたのは、北緯43度の北海道・余市。夏の平均気温が20度という冷涼の土地である。そこで藤本 毅さんのブドウ畑を見た瞬間、「この場所なら新しい挑戦が出来る」とコタレッラ氏は思ったという。「私がこの冒険に魅了されたのは気候的に極限の地での”挑戦”だから。結果が予測できないような場所に強く惹かれたのです」。
山の地形を見事に利用し、しっかりと管理されたブドウ畑、風の向き、畝の間隔、株の形。元々日本人の畑はきれいだが、「藤本さんの畑には、とりわけブドウに対する情熱が強く感じられました」。それもそのはず、農園主・藤本 毅さんは余市のブドウ作りの草分けとして知られる名人。りんご農家からワイン用ブドウに切り替えて約40年、折しも藤本さんが畑や余市の将来、今後のことを考え始めた時期にこの出会いがあったのだ。幸運なタイミングが重なり、縁が繋がる。2014年に藤本さんの畑はキャメルファームワイナリーが受け継ぎ、新たなエポックに入った。
藤本さんの技や知恵を徹底的に学ぶために、その年の春から畑に携わるようになったのが、現在ワイナリー長を務める伊藤 愛さんだ。ブドウ栽培はおろか、農業経験もなかった伊藤さん。口数の少ない藤本氏の作業を黙々と追い、ひたすらに学ぶ日々が続く。枝の選び方、ハサミの使い方、土の作り方……。最初の一年は「訳のわからないまま、あっという間に」過ぎたという。いつ誰にどこから見られてもいいよう、畑や作業場を美しく保つのはもちろんだが、作業中の姿勢にまで注意を受けたときは、一流農家としての誇りを厳しいまでに感じた、と伊藤さんは語る。
キャメルファームワイナリー
Tel. 0120-934-210
camelfarm.co.jp
見学不可
<この記事は家庭画報国際版2020年春夏号より抜粋。>
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