2019.08.30

ラーメン―その深淵なる魅力 1

いまや世界中が魅了されつつあるラーメン。行列のできる店がニューヨークに、ロンドンに、パリに、香港に今日もうまれている。元は「安い、早い、うまい」の大衆食であったラーメンが、昨年にはミシュランガイドにも掲載される事態となった。一体ラーメンの何がそんなに魅力的なのか。一度食べるとまたすぐに食べたくなるその秘密はどこにあるのか。どんどん広がるバリエーションの行方は? その丼の中には一体何が満たされているの? 貴方の全ての疑問をこの特集で読み解いていきたい。

醬油ラーメン

日本人の食卓に欠かせない調味料・醬油を使ったラーメン。もっともポピュラーな種類で、醬油の種類によって地域性が見られる、日本ラーメンの原点。(たけちゃんにぼしらーめん 調布店)

とんこつラーメン

九州の久留米が発祥とされ、博多・熊本も有名。豚骨を長時間、強火で煮出す白濁したスープが特徴。’80 年代に関東で一大ブームが巻き起こった。(博多長浜らーめん 田中商店 本店)

塩ラーメン

塩味はスープ本来の味を最大限に生かしたタイプ。江戸時代、水戸藩藩主・徳川光圀が中国の儒学者にふるまわれたのが日本初のラーメンと言われ、これが塩味だったとか。(饗 くろ㐂)

つけ麺

茹でた麺を冷やして器に盛り、別碗の熱いつけ汁につけて食べるラーメンの一種。〈大勝軒〉の創業者・山岸一雄氏が、’55 年頃に考案。’07年頃、濃厚な魚介系つけ汁のつけ麺がブームに。(勢得)

味噌ラーメン

主に大豆でつくられる調味料・味噌を使用したスープ。戦後、寒冷の地・札幌で開発され、熱いスープの温度を下げないためにラードの層で表面を覆うのも特徴。(麺屋 彩未)

どうして人はラーメンをこれほど愛するのか

ラーメン店の前に行列を見かけることは、東京ではそう珍しいことではない。夏の炎天下の昼下がり、身も心も凍るような冬の夜、文句を言うこともなく、人々は淡々と順番を待っている。 もともとラーメンのルーツは中国の汁そばにあり、日本に伝えられたのは明治維新後。それから約150 年、独自の進化を遂げたラーメンは、日本人にとっては押しも押されもせぬ国民食のひとつになった。そして、今やその波は世界へと向かい、日本が誇るインターナショナルフードへと成長しつつある。 ここ10 年の間でブームになった鶏白湯、濃厚魚介、牛骨をはじめ、その種類は数え切れないほどあるが、多くの日本人の心に一番訴えかけるのはやはり醬油ラーメンだろう。 東京・調布に店を構える「たけちゃんにぼしらーめん」は、一時代を席巻した「煮干し(魚介類を茹でて乾燥させたもの)系スープ」のカリスマ的存在の店。香川・伊吹、長崎、千葉の煮干しや宗太鰹、羅臼昆布を毎朝、煮出す。そして長時間炊いた豚骨スープと合わせ、動物系と魚介系の2 種類の味を中和させる。醬油ダレを合わせると、その味と香りがひきたつ絶妙な味わいに。天然素材ならではの塩味、旨味は、飽きがこないばかりか、むしろ食べ終わってすぐ、また口にしたくなるほどだ。ラーメンの味は店主の情熱の結晶に他ならない。数多のライバル店や熱狂的、そして同時に移り気な客を相手に、勝ち残っていくのがどれだけ大変なことか。完成された丼の世界、そして秘められたストーリーは、私たちをますます虜にする。