ライフスタイル
2021.03.09

知られざる花の国
日本・高知県―1

撮影=大見謝星斗

日本の主な4島の中で最も小さい島、四国に位置する高知県。ここが今、ジャパンクオリティの「花」の生産地として、世界でじわじわと人気を高めつつある。花と暮らす文化が脈々と受け継がれてきた日本から、高知県に咲き誇る生命力をフィーチャーする。

 

花が「ありがとう」と言ってくれるようにいけたい

花の美しさも、それを身近に飾りたいという思いも世界共通です。しかし日本文化の一つであるいけばなは、飾ることだけを目的としてはいません。草月流初代家元、勅使河原蒼風は「花はいけたら、人になる」という言葉を残しましたが、いけばなは花をいけることによって”自分と向き合う”ものなのです。

同じ花を同じ条件でいけても、丁寧にいける人、大胆にいける人、セオリー通りに無難さを求める人、考えすぎていつまでも花をいじってしまう人……そのプロセスも結果も実にさまざまです。多くの生徒さんを教える中で、私は蒼風の言葉をしみじみと感じるのです。花には、人の心や思いが、長所も短所も含めた人となりが現れるのだということを。


世界中が新型コロナウイルス感染症の猛威に巻き込まれた2020年年末。東京・赤坂の草月会館のエントランスに突如現れたのが、高知県産の真紅のグロリオサで作られた直径3mの大きな球体。低迷する花卉業界を応援し、花で世界を元気づけたいと、クラウドファンディングで集めた資金で購入した5000本のグロリオサを、草月流家元、勅使河原 茜さんが生けた。

いけばなは、花をいけるテクニックを学ぶと同時に、人と人が花を通して磨きあい、成長していく、日本独特の文化であると思います。私自身はといえば、もっとも心がけていることは「今、目の前にある花をどう生かすか」ということ。こちらの思いを押し付けると、花も苦しいと思うのです。独りよがりにならず、今日出会った花から感じたままに、花が「ありがとう」と言ってくれるようにいけたいのです。

その点で、高知県の花の生産者さんとは、どこか相通ずるものを感じます。高知産の花と向き合うと、生産者の方が「花を育て、届け、使ってもらうまで」を一貫した仕事として考えていることがわかります。どうしたら使いやすいか、どうすれば喜ばれる品質になるか、花が幸せにいけてもらえるようにプライドを持って取り組んでいる。茎の伸ばし方、葉のつけ方、丈の揃え方……それはもう1本1本見事なまでに品質が揃っているのです。


波型の細い花が咲くグロリオサは、花びらの形に個性がある、家元がとても好きな花。高知県産のグロリオサ2種(黄色は「ルテア」、花びらの先がほんのりピンクがかった白色は「カプリスロゼ」)が、躍動感とともにのびやかに線を描く春らしい作品だ。草月会館内にある世界的アーティスト、イサム・ノグチが作庭した、石の庭を水が巡る静謐な空間「天国」にて。

今日は高知県産の黄色と白のグロリオサを、春らしく軽やかにいけました。自作のブルーの花器と、口元を引き締めた濃いパープルのトルコギキョウ。花たちが喜んでいてくれることを願っています。

 

 

勅使河原 茜
2001年第四代家元就任。自由な創造を大切にする草月のリーダーとして新しいいけばなの可能性を追求する。他分野のアーティストとのコラボレーションに積極的に取り組むとともに、いけばなを通じて子どもたちの感性と自主性を育む「茜ジュニアクラス」を主宰し指導に力を注ぐ。2021年は家元継承20周年の節目の年となる。


草月会館
東京都港区赤坂7-2-21
Tel. 03-3408-1154
平日9:30〜17:30 土曜・日曜・祝日休館
https://www.sogetsu.or.jp


高知県の情報はこちら
https://visitkochijapan.com/en

高知県の花についてのお問い合わせ
160701@ken.pref.kochi.lg.jp

 

[Part2へ続く]

<この記事は家庭画報国際版2021年春夏号より抜粋。>