- 伝統
- 2020.07.07
きものの文様―10
【魚(さかな)】子孫繁栄の吉祥文様
古来、日本のきものに施されてきた美しい「文様」。そこからは季節の移ろいを敏感に取り入れてきた日本人の感性や、時代ごとの社会のしきたりを読み解くことができる。夏にちなんだ文様を中心に、きものの装いで通年楽しめるものや格の高い文様まで、文様のいわれやコーディネート例を、毎週お届けする。
今週は、自然や動植物の縁起物を描いた吉祥文様を3種ご紹介しよう。
中国では魚を「ユィ」と発音し、「有余(有り余る)」と同じ発音であることから、富と幸福のシンボルとされてきた。また、魚はたくさんの卵を産むため、子孫繁栄の吉祥文様として扱われた。古くは蓬莱(ほうらい)の島を行き交う魚が、正倉院の宝物や平安時代の装飾品に見られる。文様としては、鯉(こい)、鮎(あゆ)、鯛(たい)、金魚、河豚(ふぐ)、蟹、海老などが主流だ。
魚文(うおもん)
魚を文様化したものの総称。単独で用いられるほか、多くは波や海草など海に関連したものと組み合わせて表現される。2匹の魚を向かい合わせた双魚(そうぎょ)文は、中国の伝統的な文様のひとつだ。写真は訪問着に施された魚文で、海中を泳ぐ魚の群れを表現したもの。
鯉(こい)
鯉を文様にしたもの。中国では竜門という急流を登った鯉は、やがて龍になるとされるため、出世魚として古くから尊重された。文様では荒波の間を勢いよく泳ぐ姿が描かれ、波間の鯉、鯉の滝登り、鯉尽くしなどがある。
荒磯文(ありそもん)
波間を踊る鯉の姿を表した文様。名物裂(めいぶつぎれ)に見られる有名な柄で、中国明代(みんだい)の作といわれている。このほか、波の打ち寄せる荒磯に、岩や千鳥をあしらったものも荒磯文と呼び、岩と松を組み合わせたものは荒磯松文(ありそまつもん)という。
めだか
めだかは日本に生息するもっとも小さな淡水魚だ。単独で文様化されることは少なく、水文や水草などと一緒に水辺文様のひとつとして表現される。現在は春のモチーフとして、趣味の染め帯などに用いられている。写真はめだかに葦(あし)を添えた夏帯。
【きものの装いにおすすめの季節】
通年、春、夏
『格と季節がひと目でわかる――きものの文様』
監修者/藤井健三
世界文化社
今回ご紹介した文様を含め、300以上もの文様を掲載。文様の歴史や意味が豊富な写真によってよくわかり、体系的に勉強することができる。きものや帯にはそれぞれ素材や文様によって格があり、着る場面に合わせて格を揃える必要がある。判断に迷う格と季節が表示され、コーディネート例も豊富に紹介している、見ているだけで楽しく役に立つ1冊。
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