伝統
2020.06.17

きものの文様 ―2
【菱(ひし)】公家装束ゆかりの代表的な幾何学文様

古来、日本のきものに施されてきた美しい「文様」。そこからは季節の移ろいを敏感に取り入れてきた日本人の感性や、時代ごとの社会のしきたりを読み解くことができる。夏にちなんだ文様を中心に、きものの装いで通年楽しめるものや格の高い文様まで、文様のいわれやコーディネート例を、毎週お届けする。

今週は、グラフィカルでユニークな和の文様世界の入り口へご案内しよう。


菱文

4本の斜線によって囲まれた菱形は、連続すると斜め格子や襷(たすき)文様などと呼ばれる。池沼に自生する水草、菱の実の形を文様化したものとの説もあり、縄文時代の土器に刻まれるなど、古くから文様として使われたことがわかっている。

菱文様が全盛となるのは、平安時代に公家装束の有職文様となってからで、幾何学文様の代表として、染織や工芸品の意匠に用いられた。

>有職文様とは、平安時代からの公家階級の装束、調度品、牛車(ぎっしゃ)などの装飾に用いられた伝統的な文様の総称。

単なる菱形ではなく、菱形の中に四弁花を入れた花菱、羽を広げた鶴を向かい合わせて菱形にかたどった向い鶴菱 <記事はこちら>、菱形を4つ組み合わせた四菱など、多くのバリエーションが登場している。

 

菱文(ひしもん)
基本の菱形をさまざまに反復させて、多くの変形文様が生まれている。上の写真のように小さな菱形を連続させたものは小紋などの染めのきものに使われ、格調のある有職文様の菱形は礼装用の帯などに用いられる。

 

松皮菱(まつかわびし)

上と下の写真の柄ように、菱形の上下にさらに小さな菱形をつけた形。松の皮をはがした形に似ているところから、この名がつけられたといわれている。

 

花菱(はなびし)
菱形の中に花びらを4枚入れた文様で、ほかの文様と組み合わせて用いられることがある。形が美しいことから白生地や帯の地紋にも使われる。花菱を4つ集めて1つの菱形にしたものは四花菱(よつはなびし)という。


小花模様を刺繍であしらった無地感覚のきものに、黒地に花菱を織り出した袋帯。きものの優しい印象とシャープな帯の文様との対比がお洒落。

 

【きものの装いにおすすめの季節】
通年

 

『格と季節がひと目でわかる――きものの文様』

監修者/藤井健三
世界文化社

今回ご紹介した文様を含め、300以上もの文様を掲載。文様の歴史や意味が豊富な写真によってよくわかり、体系的に勉強することができる。きものや帯にはそれぞれ素材や文様によって格があり、着る場面に合わせて格を揃える必要がある。判断に迷う格と季節が表示され、コーディネート例も豊富に紹介している、見ているだけで楽しく役に立つ1冊。

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