- 伝統
- 2020.06.09
伝統工芸が紡ぐ和のマスク―1
マスクが日々の生活の必需品となりつつあるなか、日本各地の伝統織物の美と技術をつめこんだ布マスクがいま話題になっている。使い心地と機能性に、個性的なスタイルも兼ね備えた、ふたつの和のマスクをご紹介しよう。
「槍をも通さぬ」小倉織が人々を守る
江戸時代に北九州の地で誕生した「小倉織(こくらおり)」をご存じだろうか。糸を織る際に、たて糸の密度を高くすることにより生まれるたて縞模様と丈夫でしなやかな生地が特徴の織物だ。主に男性の袴や帯に使用され、将軍・徳川家康も愛用したという。そんな小倉織の布でできたマスクが誕生した。
江戸時代には袴、明治時代には男子学生服に使用され流行したが、人気とともに粗悪な模造品が出回ったことがきっかけで、昭和初期に一度は生産が途絶えてしまった小倉織。しかし、北九州市出身の染織家・築城 則子(ついき のりこ)さんの手により、復元・再生された。もともとは、ほかの織物を研究していたという築城さんだが、偶然目にした絹とも違う独特な光沢感のある珍しい木綿の布が、自分の故郷の特産品だったと知り「なんとか地元の伝統工芸を蘇らせたい」と思ったという。
男性の衣服への使用が中心だった時代の小倉織は、黒や茶、藍色など、色目が地味なものが多いが、彼女の手織り作品は、美しい色彩による繊細で立体的なグラデーションが目を引く。これらの色は草木染めによるもので、綿糸を先染めし、たて糸をよこ糸よりも高密度に細かく織り込むため、生地の表面に鮮明なたて糸の色が浮き出し、不思議な奥行きが生まれるのだ。
築城さんがプロデュースする機械織による小倉織ブランド「小倉縞縞(こくらしましま)」では、色調を含む独自のデザイン性と小倉織の伝統的な特徴を織り交ぜたプロダクトを多数開発している。「もっと多くの人にこの織物の魅力を知ってほしい」という思いから、現代のライフスタイルに合わせ、テーブルクロスや、クッションカバーなどのインテリア雑貨、ネクタイやバッグなどファッションアイテムを製造し国内外へ発信。海外でも人気を博している。
そんななか、新型コロナウィルスの感染拡大とともに広がる地元民の不安の声を受け、新たに生産を始めたのがマスクだ。「江戸時代には『槍をも通さない』と言われたほどの丈夫さと、洗えば洗うほどに光沢が増す小倉織の布は、布マスクには最適なのです」。そう教えてくれたのは、築城さんの姪で、小倉縞縞の専務を務める築城 弥央(ついき みお)さん。さらに小倉織は綿100%で肌触りが優しく、マスク着用で起こりがちな肌のトラブルなどの心配も少ないという。デザイン面では、縞模様を斜めに用いることで、顔の立体感を綺麗に見せるというこだわりのマスク。「何かと不安なときですが、丈夫で強い小倉織が皆さんを守ってくれることを祈っています」。
小倉縞縞
福岡県北九州市小倉北区大手町 3-1-107
Tel. 093-561-8152
http://shima-shima.jp/
http://shimashima.shop-pro.jp/(オンラインショップ)
布マスク 2,000円
マスクキット(小倉織生地・ガーゼ・ひも)お楽しみセット 1,000円
※現在は国内での販売のみ。
[Part 2へ続く]
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