伝統
2019.12.27

京都・西陣織の老舗「細尾」の挑戦①

撮影=大道雪代

過去と未来、伝統工芸と人をつなぐ宿 

京都・西陣織の老舗「細尾」が今、日本の伝統工芸の世界に変化を起こそうとしている。それは伝統の名のもとで忘れられかけていた真の日本の美意識と技術を、世界規模の存在へと押し上げていく試みのように見える。細尾の挑戦を、2回にわたってお伝えしていこう。

京都御所の南、ともすれば地元の住人も通り過ぎてしまいそうな路地の奥で、その場所は静かに時を刻む。元は職人の住居だったという築100 年を超す町家が、コンテンポラリーな感性で生まれ変わった。創業1688 年の西陣織の老舗「細尾」が2017 年にオープンした、1 日1 組限定の宿HOSOO RESIDENCE だ。

キーワードは” 工芸建築”、そして” 時間”。格子戸の玄関を入るとまず目を引くのは、三色の層が重なる土壁(メイン画像)。日本では飛鳥時代から伝わるとされる、土木技術が発達していなかった時代の版築(はんちく)という伝統工法で、枠の中に土を入れて突き固めたものだ。京都では寺社の壁などに見られる職人技を、異なる場所の土の自然な色を活かしモダンな解釈で取り入れた。HOSOO RESIDENCE をプロデュースした12 代目・細尾真孝さんはいう。「この空間のそこかしこに凝らされているのは日本の伝統的な技ですが、純和風ということではなく、あくまで今の感覚で仕立てました。数十年、数百年の時を経て生まれた自然の色や、時間とともに変化する素材特有の質感、光と影……そんな美しさを感じて頂けたら」。

2 階へ続く吹き抜けの壁に掛けられている幅約6m の西陣織のアートピースは、伝統を継承しながらも常に革新を追求するHOSOOによるもの。卓越した織りの技術で、見る方向によって金、あるいは銀に模様が浮かび上がる。「この町家の古い壁と柱の記録写真をもとに、模様を織り上げました。約100 年前の町家の”記憶” をデジタル化し、アナログに織り上げ、もう一度、現代に掛けなおした、という感覚でしょうか」。


オリジナルの家具やクッションのテキスタイルには、本銀を貼った和紙を織り込む西陣織の技法が。

ここは、京都に息づく職人技を体感する” 宿泊できるショールーム”。HOSOOのテキスタイルが施されたオリジナル家具をはじめ、老舗「開化堂」の茶筒や、100 年以上寝かせた土で作陶する「朝日焼」の器まで、実際に触れて使って、気に入れば購入も可能だ。


室内は極力、直接の光が射さないような設計にしたという。さまざまな素材に光が当たり、反射し、1 日の中でドラマティックに変化する陰影を生む。

そしてそれらの背景にある職人技を実際に知ってもらうこと、それがHOSOO RESIDENCE に込められた想いだ。Beyond Kyoto というオプションプログラムで、専属コンシェルジュと事前に相談し、通常では入れないような伝統工芸の工房や、寺社、庭園、茶室などを訪れる、自分だけの京都を知る旅を仕立てることができる。滞在中は、専用のラグジュアリー車でドライバーが希望の目的地へ案内してくれる。「なぜこのプロダクトにこれだけの値打ちがあるのか。いかに先人の技が受け継がれ、丁寧に時間をかけて作られているものなのか。その背景を知れば、より魅力を感じて頂けるはず。これほどクラフト文化が集結している、京都のような土地は世界にもないと誇りに思います。SNS が普及している時代においても、いえ、だからこそ、直接この空間と空気を味わって頂き、文化に関わる方々とお客様をつなぐ場所でありたいと考えています」。


左:左官職人の研ぎ出しの技法で仕上げられた、特徴的なバスタブ。黒漆喰の壁は湿気を帯びるときらきらと光沢を放つ。 右:階段や吹き抜け部分の手すりは鍛金職人による手仕事。かすかな叩き跡が、金属に温かみを与えている。

 

HOSOO RESIDENCE
京都市中京区両替町通二条上ル北小路町98-8
会員制、1 日1 組(2 名)限定
hosoo-residence.com
info@hosoo-residence.com