Kimono patterns of lighting and stars
伝統
2020.08.07

きものの文様―22
【自然(しぜん)】日本人の美意識から生まれた自然文様

古来、日本のきものに施されてきた美しい「文様」。そこからは季節の移ろいを敏感に取り入れてきた日本人の感性や、時代ごとの社会のしきたりを読み解くことができる。夏にちなんだ文様を中心に、きものの装いで通年楽しめるものや格の高い文様まで、文様のいわれやコーディネート例を、毎週お届けする。

今週は、夏の草花と自然の文様をご紹介しよう。


魯山人(ろさんじん)の椀に描かれた太陽と月の文様をモチーフにした帯。シンプルな美しさが魅力だ。

きものや帯に使われている自然のモチーフには、月、星、雲<記事はこちら>、風景など、さまざまなものがある。その中には、霞(かすみ)や雨、流水などのように、形としてとらえどころのないものまで図案化されており、日本人の美意識の奥深さを思わずにはいられない。これらの自然現象が文様として使われるようになったのは、飛鳥・奈良時代からといわれている。

原始時代から信仰の対象とされていた月や星、形のない稲妻など、自然文様を5種をお見せしよう。

 

(つき)
古くから太陽と月は信仰の対象となり、権威の象徴ともされてきた。日月(じつげつ)とは太陽と月の組み合わせをいう。平安時代には天文や暦を占うようになり太陽や月、星が図案化され、文様として使われるようになった。とくに月は現在も帯などに多く用いられている。

【きものの装いにおすすめの季節】
通年、秋

 

(ほし)
平安時代、北極星を守るとされる北斗七星の信仰が起こり、星の文様化が進んだ。さまざまな星の文様が生まれたが、現在は星形をモチーフにした楽しい柄が主流だ。

【きものの装いにおすすめの季節】
通年、秋

 

稲妻(いなずま)
雷や稲妻を形に表した文様で、雷文(らいもん)とも呼ぶ。曲折した直線で表現されたものが多く、桃山時代以降の能装束に多く見られ、荒々しい役柄を演じる際に身につけたといわれる。

また、もうひとつの雷文は、渦巻を四角形で表現した中国古代の代表的な文様で、中国料理の器などにも見られる。

【きものの装いにおすすめの季節】
通年、夏

 

武蔵野(むさしの)
芒(すすき)に月を組み合わせた秋の風情を感じさせる文様を武蔵野と呼ぶ。関東平野の西部に位置する武蔵野は、高い山がなく、見渡せる原野の風景が好まれて歌枕(うたまくら。和歌に詠まれることの多い地名)とされた。

桃山時代には画題として流行し、江戸時代には小袖にも用いられた。月と芒の組み合わせが一般的だが、芒野原だけのものや富士山を組み合わせたものも見られる。


生成り色地にうっすらと月と芒を描いた控えめな帯。透け感のある素材に芒を散らしたきもので、物語性のある装い。

【きものの装いにおすすめの季節】
夏、秋

 

御所解き(ごしょどき)
江戸時代の貴族や上流武家の女性が着たきもの文様の一種で、明治時代以降にこの名がつけられた。茶屋辻(ちゃやつじ)文様より後に染められたもので、手描き友禅や刺繍で表現される。

>茶屋辻文様とは、江戸時代に生まれた風景文様のひとつ。上流武家の女性が夏の正装に用いたもので、麻地に描かれた総模様を指す。モチーフとしては、水辺の風景や橋、家屋、樹木、草花が配される。


紫の生地に御所解き文様を染めた友禅の訪問着。

茶屋辻と比べると、庭に松、梅、桜、草花などが描かれ、伸びやかな流水や滝、御所の庭であることを物語る御所車や御殿、枝折戸(しおりど)・柴垣・東屋(あずまや)などが配置されている。現在も訪問着や染め帯に用いられている。

【きものの装いにおすすめの季節】
通年

 

『格と季節がひと目でわかる――きものの文様』

監修者/藤井健三
世界文化社

今回ご紹介した文様を含め、300以上もの文様を掲載。文様の歴史や意味が豊富な写真によってよくわかり、体系的に勉強することができる。きものや帯にはそれぞれ素材や文様によって格があり、着る場面に合わせて格を揃える必要がある。判断に迷う格と季節が表示され、コーディネート例も豊富に紹介している、見ているだけで楽しく役に立つ1冊。

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