伝統
2020.10.19

きものの文様―25
【唐草(からくさ)】ギリシャゆかりといわれる植物文様

古来、日本のきものに施されてきた美しい「文様」。そこからは季節の移ろいを敏感に取り入れてきた日本人の感性や、時代ごとの社会のしきたりを読み解くことができる。夏にちなんだ文様を中心に、きものの装いで通年楽しめるものや格の高い文様まで、文様のいわれやコーディネート例を、毎週お届けする。

今週は、異国から伝来した文様の数々をご紹介しよう。


菊唐草文様を唐織で表現した重厚な帯。

蔓(つる)草がからみあって曲線を描いていく文様で、草だけでなく花や果実をあしらったものもある。この文様はもとは遠くギリシャやローマの連続文様パルメット(棕櫚〈しゅろ〉の葉をモチーフに考案された唐草文様)から発展したとの説もある。

日本には中国を経て、古墳時代に渡来。地を這うように伸びる蔓性の唐草は、強い生命力を発揮するとして尊ばれ、やがて松や菊、梅など蔓を持たない植物にもアレンジされ、発展してきた。

 

唐草文(からくさもん)
もっともオーソドックスな唐草文様といえば、一般的に風呂敷の柄で知られる蔓性の唐草。写真は織り帯だが、伝統柄をモダンにアレンジしたもので、シンプルな意匠は無地感覚のきものによく調和する。

 

菊唐草(きくからくさ)
菊を中心に唐草を組み合わせた文様。鎌倉時代の工芸品や、その後の能装束や名物裂にも見られる。江戸時代以降は、藍型染めの木綿地にも使われ、普段着のきものや布団地などにも用いられた。木綿地に染めると、庶民的な中にも華やぎが感じられる。現在はきものや帯のほか、写真のような色無地の地紋にもなっている。

 

瑞鳥唐草(ずいちょうからくさ)
瑞鳥とは鳳凰(ほうおう)のこと。中国の伝説では、鳳凰は天下太平のときに現れるめでたい鳥とされている。日本でも飛鳥時代から文様に使われはじめたが、この文様は鳳凰と唐草を組み合わせた吉祥文様のひとつ。


瑞鳥に唐草をあしらった格調のある帯は、慶事にふさわしい文様。淡い地色の控えめなきものを黒地の帯で引き締めている。

【きものの装いにおすすめの季節】
通年

 

『格と季節がひと目でわかる――きものの文様』

監修者/藤井健三
世界文化社

今回ご紹介した文様を含め、300以上もの文様を掲載。文様の歴史や意味が豊富な写真によってよくわかり、体系的に勉強することができる。きものや帯にはそれぞれ素材や文様によって格があり、着る場面に合わせて格を揃える必要がある。判断に迷う格と季節が表示され、コーディネート例も豊富に紹介している、見ているだけで楽しく役に立つ1冊。

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