伝統
2020.06.23

きものの文様―4
【鉄線(てっせん)】曲線が優美な初夏の意匠

古来、日本のきものに施されてきた美しい「文様」。そこからは季節の移ろいを敏感に取り入れてきた日本人の感性や、時代ごとの社会のしきたりを読み解くことができる。夏にちなんだ文様を中心に、きものの装いで通年楽しめるものや格の高い文様まで、文様のいわれやコーディネート例を、毎週お届けする。

今週は、夏の風情を湛える草花の文様を3種ご紹介しよう。

初夏に白や紫の花を咲かせるキンポウゲ科の落葉蔓草である鉄線。しっかりとした蔓が印象的だが、その堅い蔓がまるで鉄の針金を思わせるところから、この名がついたとされる。原産地の中国では、鉄線蓮(てっせんれん)と呼ばれ、鉄扇葛(てっせんかづら)、西洋菊などの別名もある。


5月から6月の花の代表、鉄線は大ぶりの花を強調して表現される場合もある。

日本に渡来したのは、室町時代中期以降で、江戸時代には意匠や俳句などにしばしば登場している。桃山時代の能装束や小袖にも、鉄線を唐草のように表現したものが残されている。


生成り色の麻地に鉄線を刺繍した帯。鉄線の花、葉、蔓の特徴がよく表現されている。

文様としては優美な花や葉、そして特徴的な蔓が図案化されている。友禅や紅型、浴衣など染めのきものに用いられるほか、刺繍や織でも表現される。きものの装いに取り入れる場合、単独なら初夏の季節感が出るが、ほかの花の柄と組み合わせれば季節を問わず使える。

【きものの装いにおすすめの季節】

 

『格と季節がひと目でわかる――きものの文様』

監修者/藤井健三
世界文化社

今回ご紹介した文様を含め、300以上もの文様を掲載。文様の歴史や意味が豊富な写真によってよくわかり、体系的に勉強することができる。きものや帯にはそれぞれ素材や文様によって格があり、着る場面に合わせて格を揃える必要がある。判断に迷う格と季節が表示され、コーディネート例も豊富に紹介している、見ているだけで楽しく役に立つ1冊。

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