- 伝統
- 2020.06.24
きものの文様―5
【紫陽花(あじさい)】夏ならでは、『万葉集』にも見られる花
古来、日本のきものに施されてきた美しい「文様」。そこからは季節の移ろいを敏感に取り入れてきた日本人の感性や、時代ごとの社会のしきたりを読み解くことができる。夏にちなんだ文様を中心に、きものの装いで通年楽しめるものや格の高い文様まで、文様のいわれやコーディネート例を、毎週お届けする。
今週は、夏の風情を湛える草花の文様を3種ご紹介しよう。
紫陽花は古くからあり、『万葉集』の歌のひとつにも見られる。
「紫陽花の八重(やえ)咲く如くやつ代(よ)にをいませ我が背子(せこ)見つつしのばむ」の歌は、幾重(いくえ)にも咲く紫陽花の花のように、愛しい人が末永く繁栄することを願ったものだ。
文様としての紫陽花も、五月雨(さみだれ)に濡れて一層美しく輝いている様子を表現したものが主流。
文様として紫陽花が多く使われるようになったのは江戸時代以降。琳派の作家たちによって工芸品などに、大輪の青紫色の花が巧みに文様化された。
紫陽花は梅雨から盛夏にかけて咲く花なので、きものの装いに取り入れる場合、紫陽花を単独で用いたものは夏のモチーフになる。かつては能装束などにも使われたが、現代は趣味のきものや帯、浴衣に見られる。
【きものの装いにおすすめの季節】
夏
『格と季節がひと目でわかる――きものの文様』
監修者/藤井健三
世界文化社
今回ご紹介した文様を含め、300以上もの文様を掲載。文様の歴史や意味が豊富な写真によってよくわかり、体系的に勉強することができる。きものや帯にはそれぞれ素材や文様によって格があり、着る場面に合わせて格を揃える必要がある。判断に迷う格と季節が表示され、コーディネート例も豊富に紹介している、見ているだけで楽しく役に立つ1冊。
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