伝統
2020.07.02

きものの文様―7
【宝尽くし】宝尽くしの“宝”、見つけてみよう

古来、日本のきものに施されてきた美しい「文様」。そこからは季節の移ろいを敏感に取り入れてきた日本人の感性や、時代ごとの社会のしきたりを読み解くことができる。夏にちなんだ文様を中心に、きものの装いで通年楽しめるものや格の高い文様まで、文様のいわれやコーディネート例を、毎週お届けする。

今週は、華やかで賑々しい縁起モチーフを3種ご紹介しよう。

「●●尽くし」という表現は、文様の名前によく見られる、同じテーマのモチーフを集めて文様として表現したもの。宝尽くしのほか、楽器尽くし<記事はこちら>、貝尽くしなどもある。

宝尽くしとは、いろいろな宝物を並べた縁起のよい吉祥文様のこと。もともとは中国の文様で、中国の吉祥思想のひとつ「八宝(はっぽう)」や「雑八宝(ざつはっぽう)」に由来する。それが室町時代に日本に伝わり、日本風にアレンジされて宝尽くし文様となった

宝尽くし文(たからづくしもん)

中国の宝尽くしのモチーフは、仏教経典に基づいた宗教上の吉祥文様。これらをもとに日本の宝尽くし文様が生まれた。

以下に解説する打出(うちで)の小槌(こづち)や、隠れ蓑(みの)、隠れ笠(がさ)、金嚢(きんのう)など、時代や地方によってこれらのモチーフは異なるが、いずれも吉祥文様だ。

江戸時代から用いられ、現在もきものや帯に数多く使われている。モチーフの使い方はさまざまで、印象的なものを散らしたり、宝尽くしに松竹梅を組み合わせたものもよく見られる。


美しいぼかしに宝尽くしが描かれたきものと古典文様の帯の組み合わせ。宝尽くし文様はいつ着てもよいものだが、日本では正月など、祝いの場で着るとよりおめでたい印象に。

【代表的な宝物】
宝尽くし文様には、縁起のよいさまざまな宝物が用いられる。その中の代表的なものをご紹介しよう。

打出の小槌(うちでのこづち)
一寸法師や七福神の大黒天が持っている打出の小槌は、振れば背が伸びたり欲しいものが手に入るという縁起もの。ものを打つことから「敵を打つ」に通じて吉祥文に。

 

丁字(ちょうじ)
平安時代に日本に渡来したスパイスのクローブ。薬用、香料、染料、丁字油などになり、希少価値から宝尽くしのひとつになった。

 

分銅(ふんどう)
秤(はかり)で物の重さを量るときに用いるおもりのこと。鉄や真鍮(しんちゅう)で作られており、四角形などもあるが、両替の金銀に価して、また円形の左右がくびれている形が美しいところから文様に使われた。

 

金嚢(きんのう)・巾着(きんちゃく)
お守りやお金、香料などを入れる袋のことで、金嚢とも巾着とも呼ぶ。緞子(どんす)や錦などの美しい布で作られ、口を紐で結んで閉じる。巾着文は単独できものや帯の文様にも用いられる。

 

宝巻(ほうかん)・巻軸(まきじく)
宝巻はありがたいお経が書かれたもの、巻軸は秘伝などを記したもの。

 

筒守(つつもり)
ありがたいお経などが書かれた宝巻や秘伝が書かれた巻軸などを入れる筒状のもので、宝尽くし文様では×(バツ)型に表現されている。

 

隠れ蓑(かくれみの)
蓑は藁(わら)や茅(かや)などで作られた寒さや雨などから身を守るもの。隠れ蓑とは、着ると他人から姿が見えなくなるという、昔話などに登場する不思議な道具で、天狗が持っていると伝えられる。

 

隠れ笠(かくれがさ)
隠れ蓑と同じような素材で作られた笠で、やはりかぶると他人から姿が見えなくなるといわれる架空の道具。

 

方勝(ほうしょう)
中国の「雑八宝」のひとつで、菱形の首飾りを意味する。その菱形を赤や桃色の紐で結んだもの。

 

宝珠(ほうじゅ)
宝の珠(たま)のことで、もとは密教法具のひとつ。丸くて先がとがっており、その先端と両側から火焔が燃え上がっているように描かれる。金銀財宝など望むものを出すことができるといわれる不思議な珠。

 

【きものの装いにおすすめの季節】
通年、正月

 

『格と季節がひと目でわかる――きものの文様』

監修者/藤井健三
世界文化社

今回ご紹介した文様を含め、300以上もの文様を掲載。文様の歴史や意味が豊富な写真によってよくわかり、体系的に勉強することができる。きものや帯にはそれぞれ素材や文様によって格があり、着る場面に合わせて格を揃える必要がある。判断に迷う格と季節が表示され、コーディネート例も豊富に紹介している、見ているだけで楽しく役に立つ1冊。

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