伝統
2020.07.03

きものの文様―8
【楽器(がっき)】物事が成就する願いをこめて

古来、日本のきものに施されてきた美しい「文様」。そこからは季節の移ろいを敏感に取り入れてきた日本人の感性や、時代ごとの社会のしきたりを読み解くことができる。夏にちなんだ文様を中心に、きものの装いで通年楽しめるものや格の高い文様まで、文様のいわれやコーディネート例を、毎週お届けする。

今週は、華やかで賑々しい縁起モチーフを3種ご紹介しよう。

太鼓、琴、笛などの楽器は、音色が美しかったり、大きく鳴り響いたりする。それが神に伝えるためのよい方法とされ、それらの楽器を記して、物事の「良く成る」たとえとした。能装束などの衣装に楽器が多く使われているのは、そうしたいわれによるもの。


琴の文様

また、美しい王朝文化の調べを奏でる楽器類は貴族の教養ともいわれ、技芸上達を願ってさまざまに文様化されている。

文様として用いられるのは、形のおもしろいものや美しいものが中心だが、その多くは宮中で行われる雅楽で使われたものだ。

(こと)
雅楽で用いられる筝(こと)を文様化したもの。細長い形は印象的で、現在もきものや帯に見られる。また、琴の音の高低を調節する道具の琴柱(ことじ)は、美しい曲線を持つことから単独で文様に用いられる。

 

(つづみ)
白拍子の舞の伴奏や能楽の囃子(はやし)で使われる打楽器の鼓は、楽器文様の中ではもっともポピュラーなもの。きものや帯に、胴のくびれた小鼓が優雅な形に染めや織りで表現されている。鼓の両端の革や調緒(しらべお)と呼ばれる紐を巧みに意匠化したり、組紐などをあしらって彩り豊かに描かれる。

また、鼓に花が描かれ、飾り紐があしらわれた華やかな花鼓文(はなつづみもん)もある。

 

(しょう)
雅楽に使われる笛の一種、笙を文様化したもので、奈良時代頃に日本に伝わった。笙の形が翼を立てて休んでいる鳳凰(ほうおう)に似ているとされ、鳳笙とも呼ばれる。17本の細い竹を筒状に配し、横側についている匏(ほう)という吹口から息を吸ったり吐いたりして音を出す。文様では特徴のある竹管が印象的に描かれる。写真の笙は刺繍で表現したもの。

 

楽器尽くし(がっきづくし)
さまざまな楽器を散らして文様化したもの。文様になりやすい鼓や横笛、琴、琵琶などを集めたものがよく見られる。それぞれの楽器は形のおもしろさから、室町時代以降は単独で絵画などに使われるようになり、文様としても発展していった。

【きものの装いにおすすめの季節】
通年

『格と季節がひと目でわかる――きものの文様』

監修者/藤井健三
世界文化社

今回ご紹介した文様を含め、300以上もの文様を掲載。文様の歴史や意味が豊富な写真によってよくわかり、体系的に勉強することができる。きものや帯にはそれぞれ素材や文様によって格があり、着る場面に合わせて格を揃える必要がある。判断に迷う格と季節が表示され、コーディネート例も豊富に紹介している、見ているだけで楽しく役に立つ1冊。

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