伝統
2020.07.04

きものの文様―9
【扇(おうぎ)】繁盛・開運の吉兆を示す「末広がり」の形

古来、日本のきものに施されてきた美しい「文様」。そこからは季節の移ろいを敏感に取り入れてきた日本人の感性や、時代ごとの社会のしきたりを読み解くことができる。夏にちなんだ文様を中心に、きものの装いで通年楽しめるものや格の高い文様まで、文様のいわれやコーディネート例を、毎週お届けする。

今週は、華やかで賑々しい縁起モチーフを3種ご紹介しよう。


地紙の中に草花をあしらったもの。染めでも織りでも表現される。

高温多湿の日本で生まれた扇は、広げると末広がりになることから、繁盛・開運の吉兆とされる。形状のイメージから、またの名を「末広(すえひろ)」という。

また、扇で「あおぐ(仰ぐ)」ことは、あおり立ててさとすことを意味し、神霊を呼び起こして、物の霊を揺り動かす力を備えた道具ともされた。このように、福を招いたり、邪悪を避ける扇は、神楽や能楽、田楽などの芸能に欠かせないものとなり、扇による所作は現代にも伝えられている。

身近な生活用具であった扇の文様は、室町・桃山時代から用いられた。開いたり閉じたり、半開きにしたりと、多彩な形が描かれている。

扇面(せんめん)
扇文は扇面文や扇子文などとも呼ばれる。扇文ならではの楽しさは、扇の中に絵を描くことができることだろう。文様に用いられる扇にも、趣向を凝らしたさまざまなモチーフが配されている。季節の草花や器物、動物、幾何学文様、吉祥文様など、あらゆるものがあしらわれ、これによって扇の文様がより際立って見える。

 

扇流し(おうぎながし)
流水に扇を流した優雅な文様で、流水扇ともいう。扇は開いたり、半開きにしたり、閉じたりとさまざま。写真の振袖はその周囲に季節の草花があしらわれて華やかな仕上がりになっている。この文様は、あやまって川に落とした扇が水に流れる様子があまりに美しく、次々に扇を流したという故事に由来する。また扇面に歌を書いて、水に流して興じたからともいわれている。

 

地紙(じがみ)
扇に張る紙のこと。扇子(せんす)は本来骨のあるものだが、地紙の美しい形は、古くから文様として能装束や小袖に用いられてきた。

地紙の形の中に、草花や器物などの文様を入れたものが主流だが、上の写真のように形を生かした意匠もある。吉祥文様のひとつ。

【きものの装いにおすすめの季節】
通年

 

『格と季節がひと目でわかる――きものの文様』

監修者/藤井健三
世界文化社

今回ご紹介した文様を含め、300以上もの文様を掲載。文様の歴史や意味が豊富な写真によってよくわかり、体系的に勉強することができる。きものや帯にはそれぞれ素材や文様によって格があり、着る場面に合わせて格を揃える必要がある。判断に迷う格と季節が表示され、コーディネート例も豊富に紹介している、見ているだけで楽しく役に立つ1冊。

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