伝統
2020.10.12

きものの文様―23
【正倉院(しょうそういん)文様】歴史と格式ある奈良時代ゆかりの文様

古来、日本のきものに施されてきた美しい「文様」。そこからは季節の移ろいを敏感に取り入れてきた日本人の感性や、時代ごとの社会のしきたりを読み解くことができる。夏にちなんだ文様を中心に、きものの装いで通年楽しめるものや格の高い文様まで、文様のいわれやコーディネート例を、毎週お届けする。

今週は、異国から伝来した文様の数々をご紹介しよう。


連珠円文の中に白虎(びゃっこ)と孔雀が配された文様。

正倉院は奈良時代に建立された、東大寺の大蔵(朝廷の倉庫)。中には、聖武(しょうむ)天皇ゆかりの品々が数多く残されている。西アジア(ササン朝ペルシャ)や中国からもたらされたものが多く、国際色にあふれているのが特徴だ。

正倉院の宝物は染織品だけでも十数万点にのぼり、これらを一般的に「正倉院裂(ぎれ)」と呼んでいる。狭義には、この正倉院裂の文様を正倉院文様と呼ぶが、楽器や調度品など正倉院に納められている宝物を文様化したものや、法隆寺裂なども含めて正倉院文様と呼ぶ場合もある。

つまり、奈良時代に見られる西域や中国の影響を受けた文様を総称して、正倉院文様という呼称が広く用いられているというわけだ。


騎馬人物をあらわした文様

代表的な正倉院文様には、華文、唐花、唐草などの植物文様、鳳凰(ほうおう)、鹿、孔雀、鳥などの動物文様、動物に人や草花を組み合わせた狩猟(しゅりょう)文や樹下(じゅか)動物文などがある。

多くは帯に用いられるが、文様の格式の高さから留袖や訪問着にも見られる。

正倉院文様の中から6種をご紹介しよう。

 

 


連珠文(れんじゅもん)
小さな玉を連ねた文様のことで、円文の縁に連珠文をめぐらせたものを連珠円文と呼ぶ。円内には獅子(しし)や騎馬人物(きばじんぶつ)、鳥獣(ちょうじゅう)などが配され、法隆寺や正倉院に残る織物によく見られる。この文様は古代ペルシャで作り出されたもので、日本には奈良時代に伝わった。

 

花喰鳥(はなくいどり)
花をくわえた鳥の文様。正倉院にはペルシャから中国までの花喰鳥が見られ、鳥は鸚鵡(おうむ)、鳳凰(ほうおう)、鴛鴦(おしどり)<記事はこちら>、長尾鶏、鶴 <記事はこちら>などで、くわえているものも宝相華(ほうそうげ。唐草文様のひとつ)、瓔珞(ようらく。仏の装身具)、松、草などさまざまだ。


異国情緒あふれるこの文様は、やがて鶴が松をくわえる松喰鶴(まつくいづる)として和風化された。

 

蜀江文(しょっこうもん)
蜀江と呼ばれる文様の原点は、法隆寺裂にある。中国から伝来した蜀江錦に織り出されていた文様で、そこから蜀江文と呼ばれるようになった。八角形と四角形が連続してつながっており、中に唐花などが描かれていることが多い。

 

唐花(からはな)
中国に由来する文様で、特定の花を示しているのではなく、複数の花のイメージが重なり合ってできあがった花の文様。写真は、黒地に金の唐花を織り出している。

 

騎馬人物(きばじんぶつ)
馬に乗る人物をあらわした文様で、多くは狩猟の姿で示されている。写真は、正倉院宝物の琵琶に由来し、駱駝(らくだ)に乗って琵琶を奏でる胡人(こじん)が描かれている。

 

華文(はなもん)
正倉院に残る綾や錦に見られる花を文様化している。こちらも、特定の花を示すものではない。

【きものの装いにおすすめの季節】
通年、正月

 

『格と季節がひと目でわかる――きものの文様』

監修者/藤井健三
世界文化社

今回ご紹介した文様を含め、300以上もの文様を掲載。文様の歴史や意味が豊富な写真によってよくわかり、体系的に勉強することができる。きものや帯にはそれぞれ素材や文様によって格があり、着る場面に合わせて格を揃える必要がある。判断に迷う格と季節が表示され、コーディネート例も豊富に紹介している、見ているだけで楽しく役に立つ1冊。

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