- 伝統
- 2021.01.13
きものの文様―26
【松(まつ)】平安時代から伝わる、吉祥文様の代表格
古来、日本のきものに施されてきた美しい「文様」。そこからは季節の移ろいを敏感に取り入れてきた日本人の感性や、時代ごとの社会のしきたりを読み解くことができる。きものの装いで通年楽しめるものや格の高い文様まで、文様のいわれやコーディネート例を、毎週お届けする。
今週から3週にわたり、四季折々を映す文様をご紹介しよう。
古代中国では、風雪に耐えながら1年中緑色を保つ松は、長寿の象徴とされた。また、理想郷である蓬来山(ほうらいさん。東方の海中にあり、不老不死の仙人が住み、俗人は近づけないとされる)に生えると考えられたため、吉祥文様でもある。
日本でもめでたい木として、正月には門松を立てて年神様(としがみさま)を迎える習わしがある。通年葉の色が変わらないことから、常盤木(ときわぎ)とも呼ばれ、松の葉の色を「常盤色(ときわいろ)」という。
こうした松を用いた意匠が使われるようになったのは平安時代からで、江戸時代になって衣服などの意匠が多様化したことにより、現代にも受け継がれている多彩な松文様が生まれた。
根引き松(ねびきまつ)
新春に使いたい文様のひとつ。京都では正月になると、根のついた若松を半紙で包み、紅白の水引で結んだ「根曳(ねびき)の松」を門口に飾る。これは、正月初の子(ね)の日に長寿を祈るために小松や若菜を摘み取る平安時代の習わしに由来するといわれる。
若松(わかまつ)
芽生えて間もない松の姿を表現したもので、枝先に新芽がついているのが特徴。平安時代の正月行事「子(ね)の日の遊び」に由来するとされる。
新鮮で若々しい若松は、新春を祝うのにふさわしいものとされ、若松だけを使うほか、ほかの吉祥文様と組み合わせて、振袖や留袖、袋帯などの文様によく使われる。
扇面松(せんめんまつ)
扇面の形は、末が広がることから吉兆の意味になぞらえ、縁起のよい文様とされている。松の葉で扇面の形を表現したのがこの文様。めでたさがより強調されるだけでなく、幾何学的なデザインのおもしろさも魅力だ。
枝松(えだまつ)
力強い松の枝を印象的に描いた文様。松は千年の寿命があるとされることから、長寿の祝いをはじめ、各種めでたい席に季節を問わず使うことができる。
【きものの装いにおすすめの季節】
通年、冬、正月
『格と季節がひと目でわかる――きものの文様』
監修者/藤井健三
世界文化社
今回ご紹介した文様を含め、300以上もの文様を掲載。文様の歴史や意味が豊富な写真によってよくわかり、体系的に勉強することができる。きものや帯にはそれぞれ素材や文様によって格があり、着る場面に合わせて格を揃える必要がある。判断に迷う格と季節が表示され、コーディネート例も豊富に紹介している、見ているだけで楽しく役に立つ1冊。
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