伝統
2021.03.10

きものの文様―33
【器物(きぶつ)】道具をモチーフにした文様6種

古来、日本のきものに施されてきた美しい「文様」。そこからは季節の移ろいを敏感に取り入れてきた日本人の感性や、時代ごとの社会のしきたりを読み解くことができる。きものの装いで通年楽しめるものや格の高い文様まで、文様のいわれやコーディネート例をお届けする。

 

(おうぎ)や文箱、楽器など、あらゆる道具類や生活用具を文様化したものを器物文様といいう。それらは形が美しく、古くからきものや帯に数多く用いられてきた。

単独であしらうほか、季節の草花と組み合わせるなど、多種多様にアレンジされて文様化されている。

数多くある器物文様の中から、よく見られるものや中国から渡来したものなど、6種類をご紹介する。

 

鈴(すず)

古来、神事や祭事に使われてきた鈴は、のちに楽器として用いられるようになった。形が美しいために、工芸品や染織品の文様となり、鼓(つづみ。記事はこちら)や烏帽子(えぼし)などとの組み合わせも見られる。

現代は小紋や染め帯のほか、子どもの衣装にも使われる。また、家紋にも使用され、神楽鈴、丸に三つ鈴などがある。

【きものの装いにおすすめの季節】
通年

 

几帳(きちょう)

室内調度である几帳を文様化したもの。几帳は衝立(ついたて)式の2本の柱を立て、その上に横木を渡し、布の帳(とばり)を垂らしたもので、平安時代の『源氏物語絵巻』などによく見られる。布には花鳥や草花の文様が華やかに描かれている。

【きものの装いにおすすめの季節】
通年

 

八橋(やつはし)

小川や池などに幅の狭い板を継ぎ渡して架(か)けた橋を文様化したもの。平安時代の『伊勢物語』にある「東下(あずまくだ)り」に取材した八橋(愛知県知立市の地名)に由来したもので、尾形光琳の作品にも橋に流水と杜若(かきつばた)を添えた文様が見られる。

写真は流水と八橋、菊などで構成されている。

【きものの装いにおすすめの季節】
通年、夏

 

鬘帯(かずらおび)

能装束で女性役が頭に巻いて背中に長く垂らす幅4cm、長さ2mほどの装飾用の帯を鬘帯という。額(ひたい)の部分と後方に垂れる部分に刺繍の文様があり、唐織(からおり。織りの技法の一種。能装束では公達や女性の上着のことをいう)などと取り合わせて用いる。

文様はリボン状の美しい幅広の紐を伸びやかにあしらったものが主流だ。

【向く季節】
通年

 

文箱(ふばこ)

文箱は、文筥、文笥、文笈などとも書き、書状などを入れるための箱。古くは書物を入れて運ぶ箱のことだったが、中世以降は主に手紙類を入れて往復する細長い箱を指すようになった。

江戸時代には、蒔絵(まきえ)や螺鈿(らでん)などの美しい飾り文箱が婚礼調度品のひとつとなり、用途に応じてさまざまな大きさのものが作られた。

【きものの装いにおすすめの季節】
通年

 

巻物(まきもの)


宝尽くしのひとつとして描かれる巻物は、めでたさの象徴でもある。この色留袖は巻物の上に宝尽くし(記事はこちら)がぎっしりとあしらわれ、お祝いの席に最適。 

絵巻物や経典などとして長く利用されてきた巻物を文様化したもの。また、巻いた絹の反物を文様化したものもあり、そちらは巻絹(まきぎぬ)という。

【きものの装いにおすすめの季節】
通年

 



『格と季節がひと目でわかる――きものの文様』
オールカラー改訂版  2021年3月18日発売

監修者/藤井健三
世界文化社

今回ご紹介した文様を含め、300以上もの文様を掲載。文様の歴史や意味が豊富な写真によってよくわかり、体系的に勉強することができる。きものや帯にはそれぞれ素材や文様によって格があり、着る場面に合わせて格を揃える必要がある。判断に迷う格と季節が表示され、コーディネート例も豊富に紹介している、見ているだけで楽しく役に立つ1冊。

※全国書店および、Amazonほか各ネット書店にて販売。また、日本国内ではどちらの書店からも送料無料で店頭お取り寄せが可能(一部お取り寄せが出来ない店舗もあり)。