- 伝統
- 2021.03.12
きものの文様―34
【秋草(あきくさ)】風情ある秋の草花文様
古来、日本のきものに施されてきた美しい「文様」。そこからは季節の移ろいを敏感に取り入れてきた日本人の感性や、時代ごとの社会のしきたりを読み解くことができる。きものの装いで通年楽しめるものや格の高い文様まで、文様のいわれやコーディネート例をお届けする。
秋の七草に数えられるのは、桔梗(ききょう)、萩、女郎花(おみなえし)、撫子(なでしこ)、葛(くず)、芒(すすき)、藤袴(ふじばかま)の7種類の植物だ。これに、竜胆(りんどう)や菊など、秋の野原に自生して咲く草花を取り混ぜて文様化したものを、秋草文様という。七草の中から、桔梗や萩など1種類だけを用いて秋草文様と称することもある。
秋草が寄り添うように咲いているさまは風情があり、移ろいゆく時のはかなさや人生の無常観を感じさせてくれる日本ならではの文様だ。また、残暑が厳しい時期に身にまとうことで、季節感がひと足早く味わえることから、夏のきものや帯、浴衣などに用いられている。
秋草文(あきくさもん)
秋の七草をはじめ、秋の野原に咲く花を組み合わせたもの、あるいは単独で用いたものの総称。京都・高台寺には桃山時代の写実的で雅な秋草文の蒔絵が残されている。秋の七草を衣装の文様に使ったのもこの時代以降のこと。きものの文様は実際の季節よりも早めに用いるため、秋草文は夏用のきものや帯に使われる。
撫子(なでしこ)
薄紅色の小さな花を咲かせる撫子は、古くから秋の七草のひとつとして親しまれてきた。日本女性を大和撫子と呼んだのは、その清楚で可憐な撫子になぞらえてのことだろう。写真の帯は、藍染めで涼やかに表現している。
文様としては鎌倉時代以降、衣装や調度品に使われた。ほかの秋草と組み合わせて用いられるほか、単独でも描かれ、夏のきもの、染め帯などに。
芒(すすき)
薄とも書き、花穂が出たものは尾花(おばな)という。飛鳥時代から、神への供え物や魔よけとして用いられてきた。衣装の文様には、単独で表現されることは少なく、ほかの秋草や月、小鳥などと組み合わせて写実的に描かれたものが主流だ。
冬枯れの芒に雪が積もった情景を意匠化したものもあり、「芒に雪文様」という。
【きものの装いにおすすめの季節】
夏、秋
『格と季節がひと目でわかる――きものの文様』
オールカラー改訂版 2021年3月18日発売
監修者/藤井健三
世界文化社
今回ご紹介した文様を含め、300以上もの文様を掲載。文様の歴史や意味が豊富な写真によってよくわかり、体系的に勉強することができる。きものや帯にはそれぞれ素材や文様によって格があり、着る場面に合わせて格を揃える必要がある。判断に迷う格と季節が表示され、コーディネート例も豊富に紹介している、見ているだけで楽しく役に立つ1冊。
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