- 伝統
- 2021.03.16
きものの文様―35
【鹿(しか)】古代中国では神の乗り物であった聖獣
古来、日本のきものに施されてきた美しい「文様」。そこからは季節の移ろいを敏感に取り入れてきた日本人の感性や、時代ごとの社会のしきたりを読み解くことができる。きものの装いで通年楽しめるものや格の高い文様まで、文様のいわれやコーディネート例をお届けする。
古代中国では、鹿は神の乗り物といわれ、聖なるものと信じられてきた。さらに、鹿が「福禄寿(ふくろくじゅ。七福神のひとつ)」の「禄」と発音が同じであることから吉祥文様とされ、長寿のシンボルにもなっている。
日本でも鹿は延命長寿を表すといわれ、古くから絵画のモチーフなどに使われてきた。奈良の春日大社や広島の厳島(いつくしま)神社では神鹿(しんろく)と呼ばれ、神の使いとして崇められている。
鹿は単独で用いられるよりも、紅葉や秋草などの秋のモチーフとの組み合わせが主流。古くは平安時代の小袖にも鹿と紅葉の文様が見られる。
鹿文(しかもん)
鹿は古くから人とのかかわりが深く、『小倉百人一首』(13世紀頃)に見られる「奥山に紅葉(もみじ)ふみわけ鳴く鹿の声きく時ぞ秋はかなしき」は有名。
文様としては弥生時代の銅鐸(どうたく)に始まり、正倉院(しょうそういん)<記事はこちら>の「麟鹿草木夾纈屏風(りんろくくさききょうけちびょうぶ)」などの染織品にも見られる。現在は秋の風物と組み合わせて、きものや帯に用いられる。
有栖川文(ありすがわもん)
鹿を変わり襷(たすき)形や菱形、八角形などで囲んだ文様。有栖川宮が所蔵していた名物裂・有栖川錦に見られるため、この名が付いた。鹿のほか、馬や飛龍などをあしらったものもある
【きものの装いにおすすめの季節】
通年、秋
『格と季節がひと目でわかる――きものの文様』
オールカラー改訂版 2021年3月18日発売
監修者/藤井健三
世界文化社
今回ご紹介した文様を含め、300以上もの文様を掲載。文様の歴史や意味が豊富な写真によってよくわかり、体系的に勉強することができる。きものや帯にはそれぞれ素材や文様によって格があり、着る場面に合わせて格を揃える必要がある。判断に迷う格と季節が表示され、コーディネート例も豊富に紹介している、見ているだけで楽しく役に立つ1冊。
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