伝統
2021.03.02

きものの文様―29
【紅葉(もみじ)】平安時代から愛でられる自然美

古来、日本のきものに施されてきた美しい「文様」。そこからは季節の移ろいを敏感に取り入れてきた日本人の感性や、時代ごとの社会のしきたりを読み解くことができる。きものの装いで通年楽しめるものや格の高い文様まで、文様のいわれやコーディネート例をお届けする。

第26回~28回に引き続き、四季折々を映す文様をご紹介しよう。

楓の葉は紅葉するとより美しくなるため、古くから文様として使われてきた。楓と紅葉は同じ植物で、楓の葉が色づいたものが「もみじ」だ。

紅葉を観賞するようになったのは平安時代頃からで、それ以前の奈良時代には黄葉(おうば)に映える美しい山並みを眺めていたようだ。それが色づく楓の葉を愛でるようになったのは、紅葉を見て夏に疲れた体に生気を取り込もうとする、中国の思想が伝わったからとの説がある。それが紅葉狩りで、山中で宴に興じて体力の回復を願い、秋の収穫を祝った。

紅葉文(もみじもん)は、単独で使われるほか、唐草<記事はこちら>や波、流水、鹿<記事はこちら>と組み合わせたものもある。

 

紅葉格子(もみじごうし)

紅葉の枝を格子状に意匠化したもので、同じような表現方法は梅などにも見られ、そちらは梅格子(うめごうし)という。写真の帯は、紅葉の葉の色にアクセントをつけて変化を持たせている。

 

流水に紅葉(りゅうすいにもみじ)

色づいた紅葉の落ち葉が、渓流を流れていく様子を文様化したもので、紅葉の文様の中ではもっともポピュラーなものといえる。季節感とともに秋の風情が感じられ、現代のきものや帯にもよく使われる。

 

光琳紅葉(こうりんもみじ)

江戸中期の画家・尾形光琳(おがたこうりん)の一字をとって、光琳派美術の一系譜を「琳派(りんぱ)」と呼ぶ。その作風にはさまざまな特徴があるが、文様としては簡略化しながらも、優しい曲線で描かれたものが主流。

そうした琳派風のタッチで、紅葉を表現したものを光琳紅葉文という。ほかに、光琳梅(こうりんばい)、光琳菊(こうりんぎく)、光琳松(こうりんまつ)などが有名だ。

 

龍田川(たつたがわ)


龍田川文様の華やかな訪問着。日本の秋を感じさせる装いは、紅葉が色づき始める頃に。

流水に紅葉を散らした文様は、またの名を龍田川ともいう。自然が豊かな日本は紅葉の名所が多く、奈良県の生駒(いこま)山地を流れる龍田川もそのひとつだ。紅葉と川の風情がことのほか美しく、古くからその風情が愛でられてきた。

流水と紅葉の取り合わせは現在でも根強い人気があり、きものや帯に多数用いられている。

【きものの装いにおすすめの季節】
秋、通年

 



『格と季節がひと目でわかる――きものの文様』
オールカラー改訂版  2021年3月18日発売

監修者/藤井健三
世界文化社

今回ご紹介した文様を含め、300以上もの文様を掲載。文様の歴史や意味が豊富な写真によってよくわかり、体系的に勉強することができる。きものや帯にはそれぞれ素材や文様によって格があり、着る場面に合わせて格を揃える必要がある。判断に迷う格と季節が表示され、コーディネート例も豊富に紹介している、見ているだけで楽しく役に立つ1冊。

※全国書店および、Amazonほか各ネット書店にて販売。また、日本国内ではどちらの書店からも送料無料で店頭お取り寄せが可能(一部お取り寄せが出来ない店舗もあり)。