- 伝統
- 2021.03.03
きものの文様―30
【菊(きく)】長寿を象徴するゆえんは古代中国の伝説から
古来、日本のきものに施されてきた美しい「文様」。そこからは季節の移ろいを敏感に取り入れてきた日本人の感性や、時代ごとの社会のしきたりを読み解くことができる。きものの装いで通年楽しめるものや格の高い文様まで、文様のいわれやコーディネート例をお届けする。
第26回~28回に引き続き、四季折々を映す文様をご紹介しよう。
奈良時代から平安時代にかけて、中国から伝えられた菊は、長寿を象徴する代表的な植物だ。それは、中国の黄河(こうが)源流に有る菊の群生地から流れ出た水を飲んだ里人(さとびと)が延命を得たという伝説や、菊の露が滴(したた)った渓流の水を飲んで長命を得たという伝説などによるもの。
実際に菊には抗菌作用があり、菊膾(なます)や菊酒などに用いられる。日本でも平安時代からは宮中で秋に節会(せちえ)が催され、菊酒を飲むことが定着。日本の文化に根づいた菊は、秋の花として愛でられるようになった。
菊をさまざまに意匠化して使うようになったのは江戸時代からで、能装束などにも残されている。文様としては菊の花や葉を写実的にデザインしたもののほか、菱形<記事はこちら>や丸と組み合わせたものなど、多種多様だ。菊は秋の花とされているが、季節を問わず用いることができる。
菊菱(きくびし)
菊の花を菱形に図案化したり、菱形の中に菊の花を詰めたものを総称して菊菱文という。ほかの菊の文様と同じように古くから用いられ、さまざまな文様と組み合わせて使われることもある。小さな菊菱を生地一面に散らした江戸小紋のほか家紋にも見られる。
菊水(きくすい)
流水に菊の花を浮かべた文様で、流水の中に菊の花が半分隠れている意匠もある。菊水文は菊の群生地から流れ出た水を飲むと寿命が伸びるという中国の故事にちなんで、古くから延命長寿のめでたい文様として知られてきた。
日本で文様として使われるようになったのは鎌倉時代以降で、家紋にも用いられている。江戸時代の能装束や小袖にも多く見られ、「流れ菊」や「菊の遣(や)り水(みず)」などの風雅な名で呼ばれた。
菊尽くし(きくづくし)
江戸時代に菊の栽培が盛んになると、必然的に菊の種類が増えた。色や形はさまざまだが、それを文様化したり、組み合わせて構成したものが菊尽くし文だ。
菊の丸(きくのまる)
菊の花や葉を用いて丸形に構成したもの、または円の中に菊を配した文様をいう。古くからきものの文様として用いられてきた。現在はきものや帯に染めや織りで菊の丸が表現されている。一般的には菊だけでなく、松の丸や桜の丸、梅の丸などと組み合わせて使われる。
【きものの装いにおすすめの季節】
秋、通年
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監修者/藤井健三
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