伝統
2021.03.05

きものの文様―32
【橘(たちばな)】長寿を招く植物

古来、日本のきものに施されてきた美しい「文様」。そこからは季節の移ろいを敏感に取り入れてきた日本人の感性や、時代ごとの社会のしきたりを読み解くことができる。きものの装いで通年楽しめるものや格の高い文様まで、文様のいわれやコーディネート例を、毎週お届けする。

第26回~28回に引き続き、四季折々を映す文様をご紹介しよう。

古代日本の橘は蜜柑(みかん)のことを指す。『古事記』には不老不死の理想郷である「常世(とこよ)の国」に自生する植物と記されており、橘は長寿を招き、元気な子どもを授かると信じられてきた。正月の鏡餅の上に蜜柑がのせられるのもそのためだ。また、婚礼衣装や掛け袱紗(ふくさ)などに橘が意匠化されて用いられているのも、そうした由来によるものだ。

文様化されるのは平安時代から。不思議な力を持つ常世の国で育つ橘は、つぼみと花、果実が同時になる植物とされ、文様にも花と果実が一緒に描かれる

 

橘文(たちばなもん)


印象的な橘の実や葉を大小描いた華やかな小紋。白地に有職文様を織り出した帯と合わせてすっきりと装う。

吉祥文様の多くは中国から伝わったものだが、橘は日本で生まれた数少ない文様のひとつといわれている。一般的に果実をつけた橘の木そのものが文様化されるのが特徴で、江戸時代には、熨斗(のし)や鶴菱(つるびし)<記事はこちら>などの吉祥文様と橘を組み合わせた小袖が人気を呼んだ。現在はきものや帯に広く用いられている。


実のなるめでたい橘文の帯と芽吹きを表す若葉の小紋は、縁起のいい組み合わせ。

【きものの装いにおすすめの季節】
通年、冬、正月

 



『格と季節がひと目でわかる――きものの文様』
オールカラー改訂版  2021年3月18日発売

監修者/藤井健三
世界文化社

今回ご紹介した文様を含め、300以上もの文様を掲載。文様の歴史や意味が豊富な写真によってよくわかり、体系的に勉強することができる。きものや帯にはそれぞれ素材や文様によって格があり、着る場面に合わせて格を揃える必要がある。判断に迷う格と季節が表示され、コーディネート例も豊富に紹介している、見ているだけで楽しく役に立つ1冊。

※全国書店および、Amazonほか各ネット書店にて販売。また、日本国内ではどちらの書店からも送料無料で店頭お取り寄せが可能(一部お取り寄せが出来ない店舗もあり)。