伝統
2021.01.16

きものの文様―28
【梅(うめ)】逆境に耐える強さを象徴する花

古来、日本のきものに施されてきた美しい「文様」。そこからは季節の移ろいを敏感に取り入れてきた日本人の感性や、時代ごとの社会のしきたりを読み解くことができる。きものの装いで通年楽しめるものや格の高い文様まで、文様のいわれやコーディネート例を、毎週お届けする。

今週から3週にわたり、四季折々を映す文様をご紹介しよう。


大小の白梅の花をこぼれるように散らした梅文様の小紋。幾何文様の白地の帯で、色数を抑えたすっきりとしたコーディネート。

梅は中国原産の花木で、奈良時代初期に日本にやってきた。厳寒の中で、ほかの花に先駆けて咲く香り高い梅は、中国では逆境に耐える人生の理想とされ、日本でも『万葉集』に多く詠まれ、縁起のいい花として愛好されてきた。

多彩な梅文様は、単独のほか、さまざまなモチーフとの組み合わせによって、広く使われている。

梅文(うめもん)
梅は、百花に先駆けて咲くため、新春に着るきものや帯に使われる。梅の花だけをかたどったものから、枝つきの梅まで、文様のバリエーションは豊富だ。

 

雪持ち梅(ゆきもちうめ)

春まだ浅い時期に咲く梅は、開花してから雪に見舞われることもある。そんな風情ある枝梅(えだうめ)の姿を文様化したもの。草木に積もる雪の情景を表した文様は、桃山時代に多く用いられたといわれている。雪の白と梅の花の紅の取り合わせは、美しい日本の四季ならではのもので、染め帯などに使われている。

 

裏梅(うらうめ)

梅の花を裏から見た状態を文様化したもの。花の美しさは正面とは限らず、側面や裏側から見たときの形も文様化されているものがたくさんある。シンプルな裏梅もそのひとつで、家紋にも見られる

 

八重梅

小さな花びらを重ねて八重梅を表現した文様。清楚で気品のある一重の梅に比べて、八重梅は可憐さや華やかさを感じさせる。

 

梅の丸(うめのまる)

梅の花を円形に構成した文様。モチーフを家紋のように円形で表す方法は、植物や鳥などによく用いられる。ひとつの丸の中に、松竹梅を表したものもある。

【きものの装いにおすすめの季節】
通年、冬、正月

 

『格と季節がひと目でわかる――きものの文様』

監修者/藤井健三
世界文化社

今回ご紹介した文様を含め、300以上もの文様を掲載。文様の歴史や意味が豊富な写真によってよくわかり、体系的に勉強することができる。きものや帯にはそれぞれ素材や文様によって格があり、着る場面に合わせて格を揃える必要がある。判断に迷う格と季節が表示され、コーディネート例も豊富に紹介している、見ているだけで楽しく役に立つ1冊。

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