ゆったりとした70㎡のコーナースイートのリビングルームから望むのは、”日本一美しい八角円堂”と称される国宝・北円堂、その向こうに南円堂の姿が連なる興福寺の境内。早朝の凜と清々しい空気の中、古都の風情を独り占めしているかのよう。
2019.11.20

悠久の歴史と緑に抱かれた、賓客のための社交場
―登大路ホテル奈良

撮影=田口葉子

朝、目覚めたときに包まれる圧倒的な静けさ。そして緑とともに目に飛び込んでくるのは、名刹・興福寺(こうふくじ)の荘厳な姿。この唯一無二の借景に呼び覚まされ、時の流れもゆるやかに感じられる日常を離れた贅沢な感覚こそ、旅の醍醐味の一つ。悠久の歴史が現代(いま)につながる、奈良という地ではなおのこと、そんな時間に身を委ねるひとときも味わい深い。


ホテル入り口には、その日のゲストの出身地の国旗を掲げお出迎えするという、さりげない演出がなされる。

8世紀に都が置かれ、日本仏教の一大拠点として文化が花開いた奈良は、京都と並び神社仏閣の名所ひしめく古都。登大路(のぼりおおじ)ホテル奈良は、ヨーロッパのホテルがもつ大人の粋な社交場の雰囲気をコンセプトに、2008年に開業した。隣接する興福寺や奈良公園をはじめ、数々の名所に程近い奈良の中心地。近鉄奈良駅から徒歩わずか3分のメインストリート沿いにありながら、チェックイン後、ライブラリーも兼ねたロビーラウンジに足を踏み入れた瞬間に、ゆったりと静謐な時間が約束される。館内全体に木の質感がふんだんに活かされた、気品溢れるクラシカルな佇まいに、家具はすべて最高級のドレクセルヘリテイジ社製で揃えるなど、細部へのこだわりにゲストへの心づくしが込められる。


フロントでは周辺散策のお供に、奈良公園の鹿たちの大好物・鹿せんべいと、ミネラルウォーターをサービス。

全14室の小規模な宿だからこその、こまやかに行き届く心配りが身上。厳格な評価基準で知られるSmall Luxury Hotels of the Worldに、オープン間もない2010年から加盟しているほか、ミシュランガイド奈良版の最上位評価を6年連続で獲得していることからも、その本領が窺える。ゲストには館内でゆっくりと過ごしていただくのはもちろん、何より奈良という地の多くの魅力を知ってもらいたいと、フロントスタッフ一人ひとりがコンシェルジュとしてプランを提案してくれる。秋は奈良公園の紅葉、春は東大寺のお水取り、初夏なら紫陽花の名所へと、四季を巡っての見どころはもちろん、春日大社の朝拝(ちょうはい)、東大寺での写経や、近年人気のサイクリングなど、この地ならではの特別な体験が待っている。京都や大阪へも、いずれも電車で40分ほどのアクセスなので、例えば日帰りで足をのばすのもよいだろう。

旅のもうひとつの楽しみである美食体験は、レストランLe Boisで。正統派フレンチの流儀をベースに、伝統の大和野菜など珍しい奈良県産の素材を随所に活かし、季節を映した月替わりのメニューが人気だ。ランチとディナーは宿泊客以外のゲストも利用可能で、毎月足しげく通う地元のリピーターも数多い。


奈良に来たからには、和朝食の「茶粥」をぜひ。香り高いほうじ茶などで米を炊いた、1300年前から伝わるとされる奈良伝統の郷土料理は、なんとも優しい味わい。

ディナーの余韻に浸るなら、1階ロビー奥の扉をくぐり、宝石のようなThe Barへ。国産木材の肌触り、肘を置きやすい角度、バーテンダーとの距離など、こだわりぬいて設計されたカウンターで供されるのは、希少な国産品も幅広く揃えた、ウィスキーやクラフトジンのセレクション。銘酒を求めて宿泊予約をするゲストもいるほどで、愛好家の注目を集めている。バーやレストランで定期的に開催される、お酒とお料理、音楽を楽しむイベントでも、常連たちが顔見知りになることも多いそう。さまざまな地域や国の、上質を知るゲストたちが集う、サロンのような拠点がここにある。


The Barの風格に酔いしれる。選りすぐりの銘酒やシガーとともに、古都の宵を締めくくりたい。バーはホテル会員と宿泊ゲストのみ利用が可能。

 

奈良県奈良市登大路町40-1
Tel. 0742-25-2591
チェックイン 15時・チェックアウト 12時
スタンダードルーム 1室 8万円
スイートルーム 1室 20万円
(いずれも1室2名利用の1名料金、室料のみ)

注意:メンテナンスのため休館日あり。
ゲストには大人のための寛げる空間をお約束したいため、11歳以下の宿泊は原則お断り。

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