宿泊棟の21室すべてが地獄谷を望み、客室にいながらにして絶景を体感できる。写真は3階のダブルルーム。離れ同様、どの客室も内装に木や石の質感が活かされ、雲仙の大自然が部屋の中にそのまま取り込まれているよう。
2019.09.20

自然豊かな歴史的リゾート地で上質な憩いを
―Mt. Resort 雲仙九州ホテル

写真=西山 航

日本で初めて国立公園に指定された長崎・雲仙は、標高700mに位置し、年間を通して気温が平均的に麓より5℃ほど低いため、古くより避暑地として脚光を浴びた。Unzenという地名が海外で広く知られるようになったのは、明治時代初期から。上海租界や香港に居住していた、ヨーロッパの外交官などが夏場を過ごしたリゾートであったことは、今やあまり知られていない歴史の一ページだ。

一帯に硫黄の独特な臭いが立ちこめ、もうもうと水蒸気が噴き出す地獄谷は、雲仙の象徴のひとつ。30あまりある地熱帯から、蒸気とともに硫黄泉が沸き立つ様子は”地獄”の名の通りの大迫力だ。この地で102年の歴史をもつ雲仙九州ホテルは、1917年に海外客向けの洋館ホテルとして創業。旅行ブームに沸いた1960年代の高度経済成長期には団体客を迎える大型の温泉旅館へ転換したのち、2018年、雲仙のかつての面影を甦らせたいという想いのもと、リゾートホテルとして生まれ変わった。


地獄谷は季節の移ろいや、その日の天候や時間帯によっても水蒸気の勢いが変化し、刻々と姿を変える。このダイナミックな風景に、雲仙九州ホテルは抱かれる。

そんなホテルの歴史を物語るように、エントランスロビーで迎えてくれるのは、クラシカルな洋風の佇まいのなかに組子細工や障子があしらわれた和洋折衷の趣。ゆったりとした客室はホテルの快適性を備えながら、畳の小上がりを設けエキストラベッド対応として布団を敷くこともできるなど、日本ならではのリゾートステイを実現した。

全室が地獄谷を望む宿泊棟では、朝の目覚めの瞬間に、ソファスペースでの寛ぎのひとときに、バスタイムにと、地球のエネルギーを湛えた大パノラマが常に眼前に広がる。リニューアルにともない温泉旅館時代の大浴場はなくし、全客室に雲仙の硫黄泉掛け流しの半露天風呂と、離れのスイートには露天風呂も完備した。湯上がりにはテラスで心地よい風と野鳥のさえずりに包まれ、自然と一体となる感覚を味わいたい。


全4室ある離れは、それぞれ居室と寝室がゆるやかに区切られた、90㎡を超す広々としたプライベート空間。大きなガラス戸越しに外の緑を感じられる半露天風呂と、テラスに隣接した露天風呂で雲仙温泉のお湯を堪能できる。写真は離れAタイプ。

ほか、中庭の水盤を見下ろすテラス席がある2階のカフェバーThe MellowRidgeや、眺望が開放的な屋上のThe Roof Top Loungeでは無料でドリンク類が提供され、館内のいろいろなエリアを巡りながら思い思いの贅沢な時間を過ごすことができる。散策路や地熱体験エリアが整備されている地獄谷や、高原植物が美しい雲仙岳でのトレッキングなど、周辺アクティビティも見逃せない。日本で最も古いゴルフのパブリックコースや、雲仙岳の火山灰を釉薬に用いた「雲仙焼」の工房もあり、”静”と”動”を備えた唯一無二の宿泊体験となるはずだ。


ディナーコースから。赤身が力強い、シグネチャーメニューの長崎牛ロースの炭火焼は、季節によって付け合わせやソースが変わる。ここでは春をイメージしたカシス・マスタードとわさびマッシュポテト、赤ワインソースとともに。


野菜の旨みが凝縮された島原産ブロッコリーの冷製スープ。

そしてこの地ならではの魅力は、地元生産者から仕入れた食材に徹底的にこだわり、四季折々の味覚がふんだんに盛り込まれた料理でも存分に体感できる。特徴は、たっぷりの野菜と新鮮な魚介類。ホテルの初代創業者が上海航路の連絡船の料理人を務めていたルーツを踏まえ、本格洋風料理を旨としながらも、旅館時代のおもてなしスタイルを受け継いだ、和のエッセンスを加えた折衷感が楽しめる。器にも、九州地方の波佐見焼と有田焼、伝統ガラス細工の色柄をモチーフにしたものが使われ、さながら雲仙の文化と歴史、産業の競演が、鮮烈な旅の印象を残すだろう。

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最新の家庭画報国際版 2019年秋冬号では、日本各地の魅力溢れる宿泊体験をご紹介しています。