- 旅
- 2020.12.02
京のみやこの名建築が、ホテルとして甦る
2020年11月3日、京都・二条城を眼前に臨むロケーションにHOTEL THE MITSUI KYOTOが開業した。このホテル、ただのラグジュアリーホテルではない。近世以降、商家から大財閥へと成長した日本の名家、三井家が、約250年間所有し暮らしていた土地と建物を、現代に甦らせたホテルなのだ。
日本経済の背骨でありつつ、この国の文化や芸術を育て、花開かせてきた三井家がこの地を手放してから約75年。今改めてここに誕生したホテルには、300年を越える悠久の時と、三井家に伝わる高い美意識が、通奏低音として静かに響いている。
その象徴が、訪れるものを迎え入れる梶井宮門(かじいみやもん)。1703年に三千院に建造され、1935年にこの地に移築された門は、今回の改修に際して福井県の宮大工によって1000を超えるピースに解体された。すべての部材を細かく検分・改修し、必要に応じて材料交換や現代の技法を取り入れたものの、ほとんどの部分において300年以上前のピースを使い、当時のままに修復したという。
建築に造詣が深かった第10代当主の三井高棟(たかみね)が、客人をもてなすために作った奥書院を、今回、総檜造の「四季の間」として再び甦らせたことも特筆に価する。
桂離宮に倣った数々の意匠、海外からも高い評価を受ける現代日本画家、朝倉隆文(あさくら・たかふみ)氏が描いた圧巻の襖絵。静謐な佇まいの中にも、実は贅と技巧が凝らされた空間となっている。
しかしこのホテルのすごさは、古の記憶を甦らせたことにはとどまらない。もしあなたが、古い建造物を愛でたければ京都にはほかに見るべき場所がいくらでもある。ここでなくては得られない唯一無二の魅力は、「古と現代の融合」にあるのだ。
古きよきものを、新しいデザインに組み込む。新しさの中に、歴史の残り香を漂わせる。それらが表裏一体となった空間は、日本人はもちろん外国人にも、なんとも表現しがたい独特の居心地のよさを与える。
設計と内装を手掛けたのは国内外の4人のデザイナーたち。マスターデザイナーの栗生 明(くりゅう・あきら)、インテリアデザイナー(客室・レセプション)のアンドレ・フー、ランドスケープデザイナーの宮城俊作(みやぎ・しゅんさく)、インテリアデザイナー(レストラン・スパ)の赤尾洋平(あかお・ようへい)。それぞれに異なる色を持つ4人が集結し築き上げた、現代の伝統的建築の形を、ぜひ五感で体感してほしい。
HOTEL THE MITSUI KYOTO
京都市中京区油小路通二条下る二条油小路町284
Tel. 075-468-3100
www.hotelthemitsui.com
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