水引のお正月飾り「ことほぎ」。寿ぎとは” 言葉で祝(ほ)ぐ” という意味。今年一年、よいことがたくさんあるように……そんな思いで人々は、祝いの言葉を述べ讃える。大小さまざまな金銀の飾りを重なるように配し、先祖から次世代へと続くさまを表した。金と銀の色に新春を迎えるめでたさを託している。ちりばめられた小さな玉が、天から降り注ぐお祝いの言葉のよう。
伝統
2020.01.03

和紙に託す祝いの心

写真=鍋島徳恭 水引=廣瀬由利子

生命力溢れる木の繊維から作られる和紙は、日本人にとって、生まれいずる命、聖なるものの象徴。その和紙で作られた、新しい年を寿ぐ水引のお正月飾りには、清らかな願いと祈りの思いが込められている。


水引の結界「はつゆき」。神様の依代(よりしろ)であるお正月飾りは、今年一年の穢れを祓い、清浄な空間に神様をお迎えするためのもの。清らかさの象徴である白い和紙で作られた結界には、不浄なものの侵入を禁じる意味合いがあるのだ。水引の連なりは金沢の湿り気を帯びたぼた雪が重なるように落ちるさまを表し、枯れた赤松の枝と常緑の赤松の葉で、古い年と新しい年がつながっていく様子を表現している。

7 世紀初め、大陸から紙の製法が伝えられて以来、日本人は固有の和紙文化を確立し、障子や襖に代表されるように、暮らしに深く根ざすものとして大切にその紙を扱ってきた。しかし和紙には、そうした生活の道具としてだけではない一面がある。それが” 和紙で祝う” という日本独特の文化だ。

樹木には精霊が宿ると古来より信じられてきた日本。和紙はその樹木を原料とする。黒く硬い楮(こうぞ)の樹皮は、清らかな水に何度も何度もさらされることによって、白い和紙へと生まれ変わる。それは清浄さの証とされ、やがて和紙は穢れを祓い、清めることを意味するようになった。こよりのように細く縒った和紙を立体的に編み上げていく水引は、そうした日本人の精神性のもと、祈りや願い、寿ぎの心を託すものとして、日本の文化の中に息づいてきたのだ。


水引のお正月飾り「りん」。新たに始まる日々がすべて円満であるように、という願いを込めた白い輪に、天と地を結びつける赤い直線を合わせた潔く清冽な作品。白は昇る朝日のシンボル、赤は沈む夕陽のシンボル。陰陽の合一は、新たな物事が生まれる力を宿すといわれている。冷たく清浄な空気の中、凜と佇むその姿が美しい。

金沢で水引作家として活動している廣瀬由利子さんは言う。「伝統工芸は人に愛され、使われてこそ価値がある。もしも人が興味を失ったら、取り残され、消えていってしまうでしょう」。日本が伝え、守ってきた” 和紙で祝う” という心。それを伝承すると同時に、時代に愛されるものへと進化させていくことの大切さ――それを廣瀬さんは思う。

去る年への感謝を、来る年への祈りを込めるお正月飾り。和紙が育んできた美しい風習に今年は思いを馳せてみたい。

 

廣瀬由利子(ひろせ・ゆりこ)
石川県金沢市生まれ。関西学院大学大学院にてキリスト教美術史を専攻。水引を独学で習得する。国際文化交流の場で、外国人が水引に強い関心を寄せたことに感銘を受け、以来伝統の水引を現代感覚でアレンジした” 和のこころ・和のかたち” をコンセプトに作品を発表している。