伝統
2020.06.16

きものの文様 ― 1
【鶴(つる)】なじみ深い吉祥の象徴

古来、日本のきものに施されてきた美しい「文様」。そこからは季節の移ろいを敏感に取り入れてきた日本人の感性や、時代ごとの社会のしきたりを読み解くことができる。夏にちなんだ文様を中心に、きものの装いで通年楽しめるものや格の高い文様まで、文様のいわれやコーディネート例を、毎週お届けする。

今週は、グラフィカルでユニークな和の文様世界の入り口へご案内しよう。

 


松喰鶴

めでたいときに用いられる、日本ではおなじみの鶴や亀の文様。鶴は中国では1000年生きるとされ、瑞鳥の1種として崇拝されてきた。日本でも、純白の羽を持つ鶴は、立ち姿、飛び姿ともに美しく、上流階級から一般庶民まで吉祥文様として使われた。

飛鶴、雲鶴(うんかく)、群鶴(ぐんかく)、立鶴(たちづる)、鶴の丸など、鳥の文様としてはもっとも多くの種類がある。

>吉祥文様とは、良い兆(きざ)しやめでたいしるしを意味する文様の総称。中国の影響を受けたものが多いが、日本で生まれたものもある。代表的な文様は、鶴や亀、松竹梅、四君子(しくんし。蘭・竹・菊・梅を組み合わせた図柄)、宝尽くしなど

 

松喰鶴(まつくいづる)
花喰鳥(はなくいどり)文の一種で、鶴が松の小枝をくわえたところを文様にしたもの。もともと花喰鳥は、鸚鵡(おうむ)などの異国の鳥で表現されたが、平安時代になると松喰鶴に変わり、一般に用いられるようになる。正倉院(しょうそういん)文様のひとつ。

>正倉院は、奈良時代に建立された東大寺の大蔵(朝廷の倉庫)のことで、聖武(しょうむ)天皇ゆかりの品々が数多く残されている。正倉院文様とは、楽器や調度品など正倉院に納められている宝物を文様化したものをはじめとして、奈良時代に見られる西域や中国の影響を受けた文様を総称する。

 

向い鶴菱(むかいつるびし)
翼を広げた鶴を菱形に図案化した文様で、単に鶴菱ともいう。文様の形は、2羽の鶴を向かい合わせて上下、または左右に組み合わせ、外側が菱形になるように構成している。そのほか、1羽の鶴を菱形にまとめたものも見られる。菱文が有職(ゆうそく)文様のひとつでもあることから、吉祥の鶴と合わせることで、文様の格式が上がるともいわれる。

>有職文様とは、平安時代からの公家階級の装束、調度品、牛車(ぎっしゃ)などの装飾に用いられた伝統的な文様の総称。

 

向い鶴丸(むかいつるまる)
翼を広げた2羽の鶴が向かい合う様子を円形にまとめたもの。基本は鶴は左右で向かい合うが、上下で向かい合ったり、松をくわえたりなどの変形も見られる。円形のほか、楕円形もある。有職文様のひとつだが、小紋などの柄にも用いられる。

 

折鶴(おりづる)
折紙の鶴を文様化したもの。文様として用いられるようになったのは、折紙で鶴が折られるようになった江戸時代といわれ、当時の小袖の文様にも見られる。また、折鶴や千羽鶴を病気快癒(かいゆ)や長寿の祝いに贈る習慣は、「鶴は千年、亀は万年」の言い伝えによるものだろう。現在も小紋などに使われる。

 


鶸色(ひわいろ)に鶴亀文様を愛らしく織り出した袋帯。紗綾形(さやがた)の紋綸子(もんりんず)の訪問着と合わせて初釜など、新春のおでかけに。

鶴亀(つるかめ)
延命長寿の象徴とされる鶴と亀を組み合わせた吉祥文様。蓬莱(ほうらい)思想に基づいて平安時代から衣装や工芸品に用いられ、江戸時代には縁起がよいことから婚礼の夜具などにも使われた。現在は鶴亀と松竹梅を組み合わせた留袖などが見られる。

【きものの装いにおすすめの季節】
通年、正月・新春

 

『格と季節がひと目でわかる――きものの文様』

監修者/藤井健三
世界文化社

今回ご紹介した文様を含め、300以上もの文様を掲載。文様の歴史や意味が豊富な写真によってよくわかり、体系的に勉強することができる。きものや帯にはそれぞれ素材や文様によって格があり、着る場面に合わせて格を揃える必要がある。判断に迷う格と季節が表示され、コーディネート例も豊富に紹介している、見ているだけで楽しく役に立つ1冊。

※Amazonほか各ネット書店でのご購入はこちら。また、日本国内では全国どちらの書店からも送料無料で店頭お取り寄せが可能(一部お取り寄せが出来ない店舗もあり)。