伝統
2020.07.17

きものの文様―15
【鱗(うろこ)】古代より世界各地に見られる文様

古来、日本のきものに施されてきた美しい「文様」。そこからは季節の移ろいを敏感に取り入れてきた日本人の感性や、時代ごとの社会のしきたりを読み解くことができる。夏にちなんだ文様を中心に、きものの装いで通年楽しめるものや格の高い文様まで、文様のいわれやコーディネート例を、毎週お届けする。

今週は、連続性に宿る美しさを文様のなかに見つけていこう。

鱗文様は、正三角形または二等辺三角形を連続して配した文様。三角形と三角形を四方に連ねると、その頂点が接することで、三角形の間に新たな三角形ができる。三角形の連続する様子を魚や蛇の鱗に見立てて、この名がつけられた。

単純で描きやすいことから、古代より世界各地に見られる。日本でも古くは古墳の壁画や埴輪(はにわ)などの文様がある。鎌倉幕府の武将、北条時政の旗印は三角形を3つ重ねた「三鱗(みつうろこ)」と呼ばれるものだった。室町時代以降は能装束や陣羽織にも見られ、能や歌舞伎では鬼女や蛇の化身の衣装に使われている。

kimono pattern

鱗文(うろこもん)
地と文様の三角形が交互に入れ替わって構成される。基本は同じ大きさの三角形の入れ替わり文様だが、現在はさまざまにアレンジされ、三角形を用いた柄の総称ともなっている。

きものや帯、そのほかの和装小物にも幅広く用いられ、三角形の中に文様を入れたり、部分的に三角形を強調した意匠など、多彩な鱗文様が登場している。

また、三角の文様は古くから魔物や病を示すものであったとか。古墳の壁画や装飾に、神に屈した悪魔の印をあえて描くことで、忌み嫌うものを追い払おうとしたともいわれている。

やがて、三角は魔よけや厄よけの意味で使われるようになり、京都には現在も、女性の厄年(33歳)に鱗文様の長襦袢を着る習慣が残っている。


能や歌舞伎を見に行くときは、演目に合わせた装いをするとお洒落。能の『道成寺(どうじょうじ)』では、怨霊と化した白拍子が鱗文様の衣装で現れる。歌舞伎の『京鹿子娘道成寺(きょうがのこむすめどうじょうじ)』では、蛇体を表した清姫の衣装に鱗文様が用いられている。

 

【きものの装いにおすすめの季節】
通年

『格と季節がひと目でわかる――きものの文様』

監修者/藤井健三
世界文化社

今回ご紹介した文様を含め、300以上もの文様を掲載。文様の歴史や意味が豊富な写真によってよくわかり、体系的に勉強することができる。きものや帯にはそれぞれ素材や文様によって格があり、着る場面に合わせて格を揃える必要がある。判断に迷う格と季節が表示され、コーディネート例も豊富に紹介している、見ているだけで楽しく役に立つ1冊。

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