- 伝統
- 2020.07.30
きものの文様―17
【舟(ふね)】島国になじみ深い船の文様
古来、日本のきものに施されてきた美しい「文様」。そこからは季節の移ろいを敏感に取り入れてきた日本人の感性や、時代ごとの社会のしきたりを読み解くことができる。夏にちなんだ文様を中心に、きものの装いで通年楽しめるものや格の高い文様まで、文様のいわれやコーディネート例を、毎週お届けする。
今週は水にまつわる文様をご紹介しよう。
海に囲まれている日本は、漁などを通して古くから舟とかかわりと持ってきた。それだけに、舟の文様はなじみのあるもので、種類も多彩だ。舟が工芸品や染織品の文様として登場するのは、室町・桃山時代以降。
文様として描かれる舟は、帆掛け船、屋形船、南蛮船(なんばんせん)などが主流で、いずれも特徴のある形が印象的。これらの舟は単独で描かれるほか、波や葦(あし)などの水草、鳥などとともに用いられるものもある。
なかには、葦の茂みから舳先(へさき)だけをのぞかせた風情のある文様も見られる。
南蛮船(なんばんせん)
室町時代末期から江戸時代にかけて、スペインやポルトガルからやってきた大きな船を文様化したもの。まだ見ぬ異国への憧れを込めて、ハイカラなモチーフとして描かれた。その後、オランダやイギリスからも船が渡航したが、欧州の船はすべて南蛮船と呼ぶようになったという。
当時の能装束や陣羽織(じんばおり)に南蛮船を描いたものが見られ、現在は訪問着や帯の文様に用いられる。
宝船(たからぶね)
米俵や宝珠(ほうじゅ)などの宝物を積んだ帆掛け船を文様化したもの。昔は、正月の2日の夜に、縁起のよい初夢を見るために、宝船の絵を枕の下に敷いて寝るまじないがあった。
当初は、帆掛け船に宝物を積んだ図柄だったが、江戸時代になると七福神の乗ったものも描かれるようになった。宝船の描かれた絵を売る「宝船売り」は大正の頃まで続いたといわれる。
帆掛け船(ほかけぶね)
帆船(はんせん)ともいい、帆をかけた船を文様化したもの。庶民にとって身近な、生活のための柴や炭、野菜などを積んで小川を往来する小舟は、安らぎが感じられるようにのんびりと描かれる。
その一方で、遠距離や多量の荷物を運ぶ大型の帆船は、珍しい品物などを運んでくる夢の乗り物だった。こうした帆船は順風を受けて膨らんだ帆を強調して描かれ、未来への希望を感じさせる。
鵜飼篝火(うかいかがりび)
飼いならした鵜を使って、鮎などの川魚を捕っているところを文様化したもの。鵜飼篝火は現在も岐阜県の長良(ながら)川で、毎年5月11日から10月15日まで行われている。長良川鵜飼は1300年ほど前から行われているもので、もとは漁のためだったが、現在は伝統を伝える観光となっている。
写真の文様は夏用の麻地の帯に、藍で染められたもの。
花舟(はなふね)
小舟に花をのせて文様化したもの。四季の美しい草花を積んだ舟が、小川を流れてゆく風雅な意匠。写真の文様は、花舟の向きに変化をもたせ、躍動感のある仕上がりになっている。
【きものの装いにおすすめの季節】
通年、夏、正月
『格と季節がひと目でわかる――きものの文様』
監修者/藤井健三
世界文化社
今回ご紹介した文様を含め、300以上もの文様を掲載。文様の歴史や意味が豊富な写真によってよくわかり、体系的に勉強することができる。きものや帯にはそれぞれ素材や文様によって格があり、着る場面に合わせて格を揃える必要がある。判断に迷う格と季節が表示され、コーディネート例も豊富に紹介している、見ているだけで楽しく役に立つ1冊。
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