- 伝統
- 2020.08.06
きものの文様―21
【雪(ゆき)】涼を感じる夏の雪の文様
古来、日本のきものに施されてきた美しい「文様」。そこからは季節の移ろいを敏感に取り入れてきた日本人の感性や、時代ごとの社会のしきたりを読み解くことができる。夏にちなんだ文様を中心に、きものの装いで通年楽しめるものや格の高い文様まで、文様のいわれやコーディネート例を、毎週お届けする。
今週は、夏の草花と自然の文様をご紹介しよう。
古くから、大雪が降った年の春は、雪解け水が豊富に出るため、稲作が順調で豊作になると信じられていた。『枕草子』には、平安時代の宮中では、大雪の日に庭で歌を詠み、参加した人々に褒美を与えたことが記されている。このように、雪は清らかでめでたい冬の風物とされてきたのだ。
こうした雪が文様として使われるようになるのは、室町時代頃からだ。当時は冬をイメージするものだったが、現在は夏にも用いられる。雪によって冬を想像させ、涼感を得るという日本人の感性によるものだろう。
雪輪(ゆきわ)
雪の結晶を6弁の丸い花のように表した文様。大きな6つのくぼみがあり、その中に、季節の植物などを詰めたものもある。植物に積もった雪は春が近づくとともに徐々に消え、残雪はまだらになっていく。その残雪を斑(はだれ)雪と呼んで春の到来の目安とした。その斑雪を図案化させて雪輪文様が生まれたといわれる。現在は多くのきものや帯に用いられ、浴衣の柄としても人気がある。
雪輪取り(ゆきわどり)
雪輪から展開した文様のひとつ。雪輪文様の大きさや形を自由に変えて文様の区切りに使う方法は、江戸時代から友禅染のきものなどに行われてきた。
雪花(せっか)
雪の結晶の形を花のように文様化したもの。江戸時代後期に雪の結晶が観察されると、さまざまな雪の結晶文様が作られた。
【きものの装いにおすすめの季節】
通年、夏、冬
『格と季節がひと目でわかる――きものの文様』
監修者/藤井健三
世界文化社
今回ご紹介した文様を含め、300以上もの文様を掲載。文様の歴史や意味が豊富な写真によってよくわかり、体系的に勉強することができる。きものや帯にはそれぞれ素材や文様によって格があり、着る場面に合わせて格を揃える必要がある。判断に迷う格と季節が表示され、コーディネート例も豊富に紹介している、見ているだけで楽しく役に立つ1冊。
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