伝統
2020.06.26

きものの文様 ―6
【沢瀉(おもだか)】武家に好まれた夏の文様

古来、日本のきものに施されてきた美しい「文様」。そこからは季節の移ろいを敏感に取り入れてきた日本人の感性や、時代ごとの社会のしきたりを読み解くことができる。夏にちなんだ文様を中心に、きものの装いで通年楽しめるものや格の高い文様まで、文様のいわれやコーディネート例を、毎週お届けする。

今週は、夏の風情を湛える草花の文様を3種ご紹介しよう。


盛夏向きのさらりとした紗織りの生地に、沢瀉の葉と花を流れるように配した京友禅のきもの。織りの味わいが楽しめる無地の帯を合わせてすっきりと。

沢瀉は水田や池、沼などに自生する多年草。夏から秋にかけて、3弁の白い花を咲かせる。葉脈が高く浮き出ているために、「面高(おもだか)」と名づけられた。

文様化されたのは平安時代頃で、矢じりの形をした葉や可憐な花が図案化されて描かれる。鎌倉時代には武家にも好まれ、鎧などの武具にも施された。矢じりに似た葉が槍のようにも見えることから、通称「勝ち草」として縁起をかついだようだ。さらに、江戸時代には多くの大名や旗本の家紋とされた。

湿地帯に自生することから、モチーフとしては沢瀉単独よりも、流水との組み合わせが多く見られる。独特の細長い葉にラインを入れて葉脈を強調し、図案によっては藤や桐の花に似た小花がともに配されているものも。現在は主に夏用のきものや帯に用いられる。

【きものの装いにおすすめの季節】

 

『格と季節がひと目でわかる――きものの文様』

監修者/藤井健三
世界文化社

今回ご紹介した文様を含め、300以上もの文様を掲載。文様の歴史や意味が豊富な写真によってよくわかり、体系的に勉強することができる。きものや帯にはそれぞれ素材や文様によって格があり、着る場面に合わせて格を揃える必要がある。判断に迷う格と季節が表示され、コーディネート例も豊富に紹介している、見ているだけで楽しく役に立つ1冊。

※Amazonほか各ネット書店でのご購入はこちら。また、日本国内では全国どちらの書店からも送料無料で店頭お取り寄せが可能(一部お取り寄せが出来ない店舗もあり)。