- 旅
- 2019.08.30
モダンに遊ぶ京都5
老舗の矜持が生む、軽やかなカフェ・スタイル
Kaikado Café
日本で一番古い歴史をもつ手作り茶筒の老舗「開化堂」が、職人の手仕事が生む機能性はそのままに、茶筒の形状をベースに製作した“珈琲缶” は瞬く間に人気商品となり、海外に愛用者も多いことで知られる。日本茶の文化を背景に培われてきた技術と、コーヒー文化とのそんな融合を象徴するかのように、2016 年5 月にオープンし話題を呼んでいるのがこのカフェだ。
コーヒー通の間で人気の「中川ワニ珈琲」の焙煎豆で淹れるこだわりのコーヒーをはじめ、パンやスイーツなど厳選されたカフェメニューとともに味わいたいのは、職人の技術と情熱が生む日用品の機能美だ。例えば下の写真のコーヒーカップは、京都は宇治の窯元・朝日焼が中川ワニ珈琲とともに開発したオリジナル。飲み口の舌ざわりを考慮したやや楕円の形状、コーヒーの香りの立ち方や持ち手の使い勝手など細部にまでこだわった。またプレートとスプーンは竹工芸品の公長齋小菅(こうちょうさいこすが)のもの、そして開化堂製のシュガーポットやミルクピッチャーと、一流の工芸品の粋が新しい形で表現される。1920 年代の市電の車庫兼事務所をリノベーションした空間は、これらの工芸品を実際に手にし使ってみることで魅力を発見し発信する、サロンのような特別な場所となり、この地で時を刻み続ける。
Kaikado Café
http://kaikado-cafe.jp/
うめぞの茶房
老舗の甘味処に生まれ育った店主が、幼いころからフルーツとヨーグルトなどにあんこを組み合わせて食べていたという自由な発想をもとに誕生した、進化系和菓子が注目されている。2016 年春にオープンした「うめぞの茶房」の“かざり羹”は、あんこを寒天とわらび粉で練り固めたものをベースに、若い世代にも和菓子に親しんでもらえるようにと見た目も華やかにアレンジ。例えば、アールグレイが香る「紅茶」には、アーモンド白餡をクリームのように絞りフルーツとバラの花びらをトッピングして、洋菓子さながらに。店頭のディスプレイに並ぶ愛らしい姿に目移りしてしまう。
一般的な羊羹よりぷるんと弾力があり、軽やかでほどよい甘さ。ほかにも定番で根強い人気なのは「抹茶」や、さっぱりとした酸味の「レモン」。季節限定の種類は早くて1 ヶ月ごとには入れ替わり、新しい種類も常時開発されているので何度訪れても新たな出会いがあるはず。クリスマス時期に発表した、ドライフルーツやナッツ、スパイスをふんだんに使った「シュトーレン」などはすぐ完売してしまったそう。和菓子にあまりなじみがなく、あんこに苦手意識のある海外客からも好評だという。和菓子が、時代と国境を越えてゆく。
うめぞの茶房
http://umezono-kyoto.com/nishijin/
Zen Café
江戸の享保年間(1716 ~ 1736)創業の和菓子の老舗「鍵善良房」が展開する「ZEN CAFE」では、和菓子を格式ばった特別なものととらえず、今の世代にも洋菓子のようにカジュアルに楽しんでもらえるよう、あえて抹茶はメニューに載せていない。代わりにコーヒーなどとのセットで、器も気軽で日常的なものを組み合わせたカフェスタイルを提案する。
本店で愛され続ける名物のくずきりと同じく、上質な吉野葛を使った特製くずもちは人気のオリジナルメニュー。まずはそのままで葛本来の風味を味わい、続いてきな粉と黒蜜をたっぷりとかけて。ふんわりもちっと、すっととろける独特の食感と優しい甘さの虜になり、連日通いつめた海外からのゲストもいたそう。
新しさの中にも決して奇をてらわず、受け継がれている本質があるからこそ、和菓子の文化が自由に、軽やかに進化を続けている。
Zen Café
https://www.kagizen.co.jp/
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