- 旅
- 2019.12.02
“Less is more”が心地よい、
名建築のリゾート・ステイ―2
[Part 1から続く]
「はじまりは、私の大切な家族のためにこの場所に別荘を建てたいと思ったのがきっかけだったんです。そのうち、もっと多くの方たちに軽井沢で過ごしてほしいという想いが募り、ホテルとして開業することになりました。ですから、我が家でくつろぐようなイメージがそのままかたちとなり、“ホテルらしからぬホテル”になっているともいえますね。ほら、客室の入り口には部屋番号もついていないでしょう?」とフェイさん。
そして何より目指したのは、“less is more=必要なものだけで豊かに過ごす”精神を感じさせる、サステナブルなホテルステイ。ししいわハウスの客室のアメニティは、タオル、バスローブ、ドライヤー、ソープ類と歯ブラシのみと、極めてミニマルだ。シャンプーやソープ類は、何種類ものミニボトルを置くのではなく、レフィル式で100%オーガニックの製品にこだわった。また通常、冷蔵庫に常備されているボトル飲料などは一切設置せず、飲料水はカラフェで提供されるという徹底ぶり。テレビはもちろん、余計なエネルギーを消費する電化製品も極力排除した。
とはいえ、客室のタオルやリネン、マットレスなどは、各国のブランドから選りすぐった品々が揃う。そして館内には、すべてフェイさんの目利きで蒐集された現代アートの数々が、温もりあるクリーンな空間にアクセントを添えている。ミニマルに、さりげなく、だが細部にまで上質が追求されているからこそ、日常の雑音から解放され、心豊かに憩いの時間に浸ることができる。
「世界を旅しさまざまなホテルステイを体験してきたなかで、いまの時代に必要なのは過剰なサービスや設備ではなく、ソフト面、ハード面ともに、次世代に残す地球環境を意識したものである、と考えるようになりました」とフェイさんはいう。坂 茂さんとの出会いを通じて、設計・施工の段階から、環境へ負荷をかけないホテル事業の取組みはスタートした。ホテル建築としては珍しい、プレハブ工法を用いた木造フレームを採用することで、構造の自由度が増し独創的なフォルムが実現したばかりでなく、工期の短縮、ひいては二酸化炭素排出量の削減にもつながっているという。構造用の木材には、スギやベイマツなど国内で入手しやすいものを用いた。曲線を描く設計のおかげで周囲の森の伐採を最小限におさえられ、加えて、ホテル稼働後の二酸化炭素排出まで見据え、敷地周辺には新たに300本もの植樹をしたという。
自然とのつながりから生まれたホテルで、人と人とのつながりが生まれ、日常のなかで本当に必要なものとは、環境のためにできることとは?という問いがふと、心に響き共有される。ここは、人と自然とをつなぎ直すホテルでもあるのだと、ゲストひとりひとりが気づくに違いない。今後は新たな棟を加え展開予定だという「ししいわハウス」。軽井沢のデスティネーションとして進化するプロジェクトに、注目していきたい。
ししいわハウス
長野県北佐久郡軽井沢町長倉2147-646
Tel. 080-7691-6020
1室2名朝食付き3万5640円(税・サ別)~
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