「平戸窯悦山」の作品はつややかな白と精緻な技巧が魅力。左:機能美を備えた大小の「三つ葉仲付け小鉢」と「四方押し珍味小鉢」。右:鋭い牙や爪、逆立つ鱗、髭やまつげの描写がまるで生きているかのような迫力だ。
伝統
2021.03.04

長崎県の伝統美、平戸白磁

17世紀半ばに純白の平戸白磁を作り出す技術を編み出し、平戸三川内焼を確立させた初代から数えて一四代。その技術を昇華させながら現代へと受け継いできた窯元、平戸窯悦山の当主、今村 均さんが、2021年2月、長崎県指定無形文化財「三川内焼 細工技術」保持者に認定された。その類まれなる技術と美しさをここにご紹介しよう。

 


左:「菊飾細工ブローチ」、「菊飾細工ピアス」 右:鈴虫と茄子、虫籠を一体にした「虫籠鈴虫」。

長崎県佐世保市の南側に位置する三川内で生まれた三川内焼は、 豊臣秀吉が16世紀末の文禄・慶長の役の際 、李朝朝鮮より連れ帰った陶工 、巨関が平戸に窯を開いたことが起源とされる。当初は陶器だったのが、陶石の発見により白いやきもの(白磁)が作られるようになり、平戸藩の御用窯となってからは、透けるような白と技巧を凝らしたやきものを次々に誕生させる。

 藩への献上品を手がけた三川内焼は、工芸の粋を感じさせる技巧や細やかな絵付けが特徴。その伝統は今も連綿と受け継がれ、「平戸窯悦山」の今村 均さんは50 余年精緻な技法と白に徹した手捻りや透かし彫りの細工を手がけている。どんなに精密な細工であっても分業はせず、パーツに分けずに一体で焼成し、「白の薄手一筋。先人に負けぬものを作るには、ひたすら作り続けることです」と今村さんは穏やかに語る。


今村 均
1942年三川内町に生まれる。佐世保南高等学校卒業後。陶芸家、高鶴 夏山に師事。1961年、12代悦山・今村鹿男の指導を受ける。2014年「捻り細工技術」佐世保市指定無形文化財指定、2017年藤田美術館ホールにて個展。2019年天皇陛下御即位を祝する献上品に「菊花虫かご」が選定、2021年長崎県指定無形文化財(三川内焼 細工技術)保持者に認定

嘉久房/平戸窯悦山
長崎県佐世保市三川内町692
Tel. 0956-30-8520
10:00~17:00
不定休

 

写真=鈴木一彦

[三川内焼をはじめ九州の工芸文化をご紹介している「緑陰の九州——工芸を巡る旅」特集は、家庭画報国際版2017年春夏号 vol. 39でご覧頂けます。]