2019.12.02

“Less is more”が心地よい、
名建築のリゾート・ステイ―1

長野県・軽井沢といえば、古くから避暑地として名高い、日本有数のリゾート地のひとつ。夏は涼やかな緑が目にも心地よく、秋は紅葉、冬は雪景色に抱かれ温泉で温まるひとときと、四季折々の魅力に溢れる。東京から新幹線で1時間あまり、豊かな自然はもちろん、美食やアートを楽しめる施設も充実している。

JR軽井沢駅から車で15分の中軽井沢エリアに、2019年2月にオープンした「ししいわハウス」は、世界的建築家でありプリツカー賞受賞者の、坂 茂さん設計のブティックホテル。周囲の木立に寄り添うようにゆるやかにカーブを描く、木造の佇まいが目をひく。


チェックインはライブラリーで。ウェルカムドリンクには長野のシードルなどが振舞われる。

チェックイン時にゲストがまず通される、レセプションを兼ねたライブラリーは天井高8mあまりの開放的な空間。日本最大級の木枠のガラス戸を用いたエントランスや窓から、やわらかな光が取り込まれる。壁伝いに階段を上がった先の中二階には、アートやデザイン、食関連の書籍を揃えた本棚や、希少なウイスキーのセレクションが並び、温かなもてなしのなかに大人の遊び心も感じられるよう。


館内から望む軽井沢の自然は、四季折々に表情を変える。

館内の家具や照明器具など、インテリアの多くも坂さんによるデザイン。90年代に“紙の建築”という概念を世界に広めた坂さんの、代名詞のひとつともなっている紙管が随所に活かされ、ふんだんに組み合わされた木の質感とも相まって、館内には優しい空気が満ちる。

2階建ての館内に、客室は10部屋。3~4部屋をひとつの“クラスター”として、ミニキッチンとリビングスペースを共有する設計になっている。複数のファミリーやグループでクラスターを共有することができ、調理器具や食器も完備しているので、例えば地元産の新鮮な食材を買ってきて料理を楽しんだり、暮らすように泊まるスタイルを満喫できる。


2階には、檜風呂を備えた客室も。バルコニーの扉を開け放ち、間近に緑を感じながら至福のバスタイムを。

各クラスターは、ホテル中央にある“グランド・ルーム”を囲むように配置され、リビングからつながる扉を開ければすぐ、広々としたこのパブリック・スペースにアクセスできる。それぞれの客室空間で……、クラスターごとの気兼ねない空間で……、そして他のゲストとも交流できるオープンな空間で……と、気分によって過ごし方は自由。“隠れ家”的なプライバシーのみに焦点を当てるのではなく、客室の外でも新たな発見やつながりを見つけられるようにとの、ししいわハウスがコンセプトのひとつに掲げる“ソーシャル・ホスピタリティ”のかたちだ。


朝食はグランド・ルームで。焼きたてのパンやはちみつ、牛乳など、新鮮な地元の恵みを楽しめる洋朝食が好評。

実はこのししいわハウス、“リゾートホテル”と聞いて思い浮かぶ宿とは一線を画す。そこに反映されているのは、シンガポールを拠点に事業を展開するオーナー、フェイ・ホアンさんの理念だ。館内にはレストランや温泉、スパ施設はなく、フェイさんによると「ホテルとしては、大きなチャレンジではありました」としながらも、ゲストには、積極的に周辺地域の温泉施設やレストランへ足を運んだり、地元のシェフが腕をふるうケータリングサービスの利用もおすすめするという。フェイさん自身が惚れ込んだ、軽井沢のローカルの魅力を存分に体感してほしい、との想いが込められているのだ。

[Part 2へ続く]